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明大中野八王子―堀越 12回、勝ち越し本塁打を放ち、二塁を回ってガッツポーズする小町選手 |
何も聞こえないほど集中できていた。延長12回2死二、三塁、明大中野八王子の小町典史君の打席。狙っていた変化球を振り抜くと、打球はバックスクリーンのすぐ左で弾んだ。
「自分が打つか、負けるかだと思っていた」。三塁を回ったあたりで耳に音が帰ってきた。勝利がぐっと近づいたことを喜ぶ味方の大声援だった。
練習試合での打率は7割前後というチームの中心打者。「小町にまわせば点が取れる」。監督やチームメートがそう言うほどの信頼を集める。この夏も、5回戦まで3試合で2本塁打を放っていた。
ところが、この試合では1回から10回まで6打席連続で凡退した。直球や甘い球がなかなか来ないなか、我慢しきれず打ちにはやり、きわどい球に手を出した。
しかも、うち4打席は得点圏に走者がいた。仲間が作ってくれたチャンスをつぶしてしまった格好だ。なのに、ベンチではこんな声が響き続けた。「小町まで回せ、小町まで回せ」
プレッシャーにも感じたが、「今度こそ」の思いが勝っていた。
「案外プレッシャーが好きなんです。自分にチャンスを回してくれたみんなに感謝したい」
次は準決勝。この日のおわびもかねて、3本は安打を放つつもりだ。