本人も「鳥肌」 富山商の二遊間が決めた「アライバ」に見る成長の鍵
富山商の二遊間が、教えを破った瞬間だった。
8月9日、全国高校野球選手権の1回戦。七回2死、鳥栖工の打者が放った詰まった打球が、二塁ベース手前で弾んだ。逆シングルで捕った二塁手の白木球二の耳に、「相棒」の声が飛び込んできた。
「トス! トス!」
遊撃手の竹田哩久だ。「自分では一塁へ送球するのは厳しいかなと思った」と白木。グラブトスで白球を竹田に託すと、受けた竹田がくるりと体を回転させ、一塁へ送球した。
2000年代の中日の黄金期を支えた二遊間、荒木雅博と井端弘和の「アライバ」コンビがよく披露した技。内野手の憧れとも言えるプレーで一塁はアウトとなり、甲子園はどっとわいた。
「鳥肌が立ちました。後々考えたら、結構えぐいプレーができたなと、うれしくなった」と竹田。「アライバ」が試合で決まったのは初めてだった。
チームでは原則、グラブトスをやらないように言われていた。「確実にプレーしなさい、ということだと思います」と白木。「最後の夏なんで、やってもいいかなと思った」という竹田と、あうんの呼吸で成し遂げたプレーだった。
試合は延長十二回、タイブレークの末に2―3で敗れたが、富山商内野陣は無失策。難しいゴロを何度もさばき、好ゲームを演出できたのは、これまで指導者らに教わったことを丁寧に守ってきたからだろう。
剣道や茶道などで修行の段階を示す「守破離(しゅはり)」という言葉がある。
「守」は師や流派の教えを忠実に守り、確実に身につける。「破」は他の教えについても考え、より良いものを採り入れ、既存の型を破る。そして独自の新しいものを確立する「離」。
白木と竹田は甲子園で「破」の段階に足を踏み入れた。ベンチに戻った白木が前崎秀和監督の表情をうかがうと、「ニヤニヤしていました」。監督は試合後、「子どもたちはいつも以上の力を発揮してくれた」と言った。
この大会で優勝した慶応(神奈川)の選手たちは、普段の練習から「こういうメニューをやりたい」などと森林貴彦監督に提案していた。準優勝の仙台育英は試合中、捕手の尾形樹人が投手交代のタイミングを須江航監督に進言していた。
「上意下達」になりがちな指導者と選手の関係。しかし、より高みを目指すなら、互いに意見を交換する「双方向性」、時に師の教えをも超える「破」の意識が大切なのだと、改めて感じる夏の甲子園だった。(山口史朗)