激戦区東京で4季連続甲子園の驚き 斎藤佑樹さんが感じた強さの本質
■斎藤佑樹「未来へのメッセージ」 東京・二松学舎大付へ
二松学舎大付はこの夏、激戦区の東京から5季連続での甲子園出場をめざしています。2021年夏の第103回全国選手権大会から連続出場が始まり、21、22年夏はいずれも甲子園で16強まで進みました。
同じ東京の早稲田実出身の僕からすると、東京で4季連続の甲子園出場という実績には素直に驚かされます。
二松学舎大付が出場した昨夏の東東京大会の参加チーム数は127。関東第一や帝京など強豪校もたくさんあります。そんな厳しい環境のなかで結果を出し続けられるのはなぜなのでしょう。
昨夏の甲子園で印象に残った打者がいます。1年生ながら4番に抜擢(ばってき)された片井海斗選手です。2回戦の社(やしろ)(兵庫)戦では左中間席へ本塁打を放ちました。
当時3年生の主将が片井選手を4番に据えるよう、監督に進言したというエピソードは印象的でした。朝日新聞は昨夏の大会中、「(片井選手は)上級生にも気軽に話しかけてくる。壁を感じない」という先輩の声を伝えていました。
今回の取材前には「上下関係が厳しくなく、仲がいいチーム」との評判も聞いていました。いまどきの、のびのびとしたチームをイメージしながら千葉県柏市の練習場を訪れたのですが、想像はすぐに裏切られました。
練習にはピリッとした空気が流れていました。市原勝人(かつひと)監督(58)への取材中、背後で打撃練習をする選手が互いに指摘し合う声が響きます。
「当てにいくな」「詰まっているぞ」
厳しさはあるのですが、かといって「上下関係」が支配するような雰囲気ではありません。2年生になった片井選手も、「先輩が下級生がやりやすい環境を作ってくれている。むしろ上級生に気を使わせています」と言います。
寮の掃除も学年に関係なく全員で取り組み、練習以外の時間は、押切康太郎主将と配球の読み方などの野球談義をしているそうです。
市原監督はミーティングや会話を通じて、様々な認識のすり合わせをしながらチームをつくるといいます。
例えば、打者が喫した三振を振り返る際は、「三振はダメ」と結果を指摘するのではなく、「1、2球目のストライクに対して、積極性がなかった点がダメ」と具体的に反省点を伝える。試合も同じで、負けたからダメではなく、なぜ負けたかを考える、といった具合にです。
そのすり合わせ作業を繰り返した結果、「3年生を中心に、指導者と選手が同じ目線で野球に取り組めるようになり、このチームもやっと選手に託せるようになってきた」。
春先、そんな手応えを得たそうです。
高校野球で「のびのび」や「仲良し」といった表現は一見、時代に合ったポジティブなイメージがあります。ただし、それだけで勝ち上がれるほど野球は簡単ではありません。
二松学舎大付は「上下関係が厳しくないチーム」ではなく、「学年に関係なく、みんなが強くなるために何をやるべきかを理解しているチーム」であり、そこに強さの理由のひとつがあるのだと感じました。
僕は二松学舎大付にやや「緩い先入観」を持っていました。練習場に足を運ばなければ、東京で勝ち続けるその強さの本質には気づけなかったと思います。
取材活動をする者として現場に行くことの大切さも改めて教えてもらいました。