指導者の皆様へ 「WBC効果」を次世代につなぐ鍵は少年野球にあり
「野球やろー!」
日本が世界一を奪還したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の取材から帰国し、休暇で実家のある富山県高岡市に帰省すると、友人の息子から腕を引っ張られた。
この春、小学4年生になったその子は、つい最近まで野球にまったく興味がなかった。
それが、WBCを見て変わった。米国との決勝戦。大谷翔平がトラウトから三振を奪った姿が格好良かったのだそうだ。「おれ、野球やろっかな」と、一気に熱が高まったという。
バットとボールをおねだりし、買ってもらった。自宅横の空き地で、近所の友達を集めて毎日のように野球遊びをしている。「遠くまで打てたときが一番うれしい」。人数は1人、2人と増え、今は6人ほどでやっているという。
これこそが、最大の「WBC効果」だろう。
大会前、日本代表の栗山英樹監督は願っていた。「子どもたちが野球ってすげえなあとか、ああいう風になりたいとか、そう思ってもらうような夢のある戦いがしたい」
まさに願い通りの展開だ。ここまでは。
友人親子は、少年野球チームに入るかどうか悩んでいる。
小学校のグラウンドで毎日やっている練習では、指導者の怒鳴り声が響く。土日ともに練習や試合で丸々つぶれる。保護者は送迎やお茶当番などがある。
友人夫婦は共働きで負担が大きい。「それに、あの怒鳴り声を聞くと、子どもを預けたくなくなる」
少子化の数倍のペースで進んでいるとも言われる野球人口の減少。旧態依然とした指導や保護者の負担が、その元凶だ。
WBCでいくら子どもたちが野球に興味を持ってくれても、「受け皿」が改善されなければ、競技の普及にはつながらない。
少なくとも、暴力的な指導や暴言は、意識ひとつですぐにでもやめられる。「コーチが優しい人なら、チームに入ってみたい」と友人の息子は言う。
この言葉を「甘ったれ」ととらえるなら、「WBC効果」は水の泡になる。(山口史朗)