野球がうまくなるより良い人間になれ 選抜4強に導いた監督の口癖
第95回記念選抜高校野球大会の準決勝の九回表。勝ち越しを許してベンチに下がる広陵(広島)の高尾響投手を、中井哲之監督(60)は拍手で迎えた。「あそこまで良く投げたことをほめてあげたい」。技術だけではなく、一生懸命プレーしたかで評価する。その姿勢が選手たちの心をつかむ。
広陵の遊撃手として甲子園に春夏連続出場。大学卒業後の1986年、商業科教諭として母校に戻った。27歳の若さで監督に就任すると、翌年の選抜大会で65年ぶりの優勝に導く。選抜では2度の優勝、夏は2度の準優勝を果たしている。
「野球がうまくなるより、良い人間になれ」が口癖だ。試験で赤点をとる、あいさつをしないなど無礼な態度があれば練習禁止。「選手は自分の子どもと同じ」と、寮生活の選手の誕生日会を月に1度開く。
進路の相談も受ける。「選手とは一生付き合う」。人生の節目にグラウンドにあいさつに来る卒業生は多い。ベンチ入り選手全員が尊敬する人物に「中井先生」を挙げる。
ユーモアと気持ちの乗せ方も知っている。大リーグの強打者バリー・ボンズ氏になぞらえ、3番真鍋慧(けいた)選手に「ボンズ」とあだ名を付けた。今大会、3回戦で無安打だった真鍋選手に「ボンズじゃなくてポン酢」と発破をかけると、次の準々決勝で3安打2打点の活躍だった。
小林隼翔(はやか)主将は準決勝で敗れた後、「夏は中井先生を日本一の監督にしたい」と言った。強い広陵には、良い「親」がいる。(福冨旅史)