大谷だってセンバツで投げて負けた 球児よ、甲子園から世界へめざせ
(1日、第95回記念選抜高校野球大会決勝 兵庫・報徳学園―山梨学院)
11年前の春、大谷翔平(エンゼルス)は花巻東(岩手)の4番・投手として甲子園にいた。
1回戦で大阪桐蔭の藤浪晋太郎(アスレチックス)から、右翼席へ大きな本塁打を放ったのを目の当たりにした。
当時のメモに「145キロの速球を見せられた後のスライダー。崩されない。体が止まって完璧」とある。
一方で、故障明けで投球フォームは固まらず、9失点で藤浪に投げ負けた。
非凡な「打」を見せながら「投」は未完成の印象が強かった大谷。藤浪はこの勝利を弾みに、春夏連覇まで駆け上がった。
その2人がいま、大リーグの同じリーグ、同じ地区にいる。そして、1日(日本時間2日)の開幕第2戦で対戦する。運命に導かれたかのように。
今年の春もこの球場には、数々のドラマがあった。絶体絶命のピンチを救った好返球、逆転本塁打の応酬、女子マネジャーを含めた部員13人での健闘……。4年ぶりに解禁された観客席の大声援に後押しされたのか、劇的な試合が多かったように思う。
大会2連覇を狙う大阪桐蔭に食い下がり、0―1で惜敗した秋田の県立高、能代松陽の戦いぶりに心を揺さぶられた。
エース森岡大智は臆することなく直球で内角を突き、強力打線を2安打に封じた。
「相手は同じ高校生。すごいとか、上に見ないで戦うつもりだった」
ほぼ同時期に開催されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。米国との決勝前、大谷の円陣の声出しと重なった。
「きょうだけは(大リーガーに)憧れるのはやめましょう。憧れたら越えられない」
あの春、9失点でKOされ、少々ひ弱な印象すら感じさせた少年が11年後、たくましさを増し、世界の頂点に立った。
この春、甲子園で戦った選手たちから「未来の大谷、藤浪」が生まれるかもしれない。
野球の物語は続く。(稲崎航一)