2試合連続タイブレーク 報徳学園、楽しんで笑ってサヨナラ勝ち再び
(29日、第95回記念選抜高校野球大会準々決勝 兵庫・報徳学園5―4仙台育英)
そのひと言で冷静になれた。同点の延長十回2死満塁。カウント2ボール1ストライクになった時だ。報徳学園の2番打者・山増達也のもとに伝令が走る。
「ボールの内側をしっかりたたけ」などと指示があり、最後にこう言われた。
「楽しめ」
大角健二監督の指示で、落ち着けた。5球目。外角寄りの高め速球を狙い通りに、左前へ流し打ってサヨナラ勝ちだ。「最高です」。両チーム計30人が出場した激闘に終止符を打った。
相手は昨夏の全国王者・仙台育英。その全国選手権決勝があった8月22日、報徳学園の選手たちは全員で甲子園球場を訪れた。主将の堀柊那(しゅうな)は言う。「来年は俺たちがここで仙台育英を倒すんだ、と思いながら外野席で見ていました」
今回の対戦が決まると、選手たちは喜んだ。昨夏から、相手投手陣の特徴をイメージしてきたからだ。
一回。2死満塁から先制の2点適時打を放った左打者の西村大和は、スライダーを得意とする相手左腕に対し、本塁ベースに近づいて立ち、逃げていく外角球を狙い打った。堀も速球に振りまけないようバットを指1本分短く持った。それぞれが冷静に工夫を凝らし、主導権を握って試合を進めた。
だが、勝利目前に浮足立ってしまう。2点リードの九回2死、あと1球の状況から四球を出し、失策も絡んで同点とされた。流れは完全に相手に傾いた。
それでも、ベンチ内では声が飛び交っていた。「おもろなってきた」「さすが仙台育英やな」「楽しもうや」
十回の場面。伝令を聞いた山増はベンチを振り返ると、みんなが笑っていたという。「それが僕たちの持ち味。いま打席に立っているのを楽しまないともったいない」。そう思えた。
2試合連続で延長タイブレークをサヨナラで制した。準決勝の相手は昨秋の近畿大会決勝で敗れた大阪桐蔭だ。「やり返したい」と堀。最高の雰囲気で雪辱に挑む。(山口裕起)