「春の王者」がいやな打者って? 大阪桐蔭・佐藤の特別な練習相手
(29日、第95回記念選抜高校野球大会準々決勝 大阪桐蔭6ー1東京・東海大菅生)
3点リードの五回。1死から大阪桐蔭の5番・佐藤夢樹(むつき)選手(3年)が右打席に入った。3球目。外角に、狙っていた直球が来た。「どんぴしゃ」だったと振り抜いた打球はぐんぐん伸び、バックスクリーンに飛び込んだ。
3回戦までの2試合は打撃不振に苦しんだ。大会初安打が本塁打。「本当にうれしかった」と、一塁を過ぎた辺りで右手の拳を突き上げた。
佐藤選手は2年生のとき、特別な練習相手と打撃を磨いてきた。昨年の選抜で優勝を決めたとき、マウンドにいた1学年上のエース川原嗣貴(しき)さんだ。
寮生活での夕食後の自主練習で、佐藤選手は川原さんのシャドーピッチングの相手をするため、毎回打席に入った。川原さんはグラブにタオル。佐藤選手はバットを持って対峙(たいじ)する。ボールがないとはいえ、実戦を想定した真剣勝負だ。
高校時代の川原さんは188センチの長身から、最速150キロ近い速球を投げ下ろす、世代を代表する右腕だった。
「普通の投手とは迫力が違う」。川原さんの投球動作に合わせて、佐藤選手はスイングを重ねた。「選抜で優勝を決めた投手を相手にしながらイメージを固めることができた。ものすごく勉強になった」
ある日、自主練習後の浴室で湯船につかりながら「川原さんにとっていやな打者ってどんな打者ですか」と聞いてみた。
川原さんは、しばらく考え込んでから「空振りを怖がらず、自分の形でスイングしてくる相手。軸がぶれず、崩れない打者が投げにくい」と答えた。
新チーム発足後は、引退した川原さんを相手に打撃練習をすることもしばしば。捉えたと思ってもバットが押し込まれる強い直球で練習を重ね、「同じ世代で怖いものはなくなった」と自信を深めた。
次はいよいよ準決勝。佐藤選手は「ホームランもですが、チャンスやチームがしんどいときに1本を出す、チームが勝つ打撃をしたい」と笑顔で話した。(岡純太郎)