大阪桐蔭「ここまで打てないとは」 能代松陽の森岡、気迫の99球
(28日、第95回記念選抜高校野球大会3回戦 大阪桐蔭1―0秋田・能代松陽)
想定していなかった。打ってくると思っていた。
0―0の七回1死三塁。能代松陽のエース森岡大智は大阪桐蔭の村本勇海(いさみ)をカウント1―2と追い込んだ。
4球目。内角直球を投げようと腕を振り始めた瞬間、打者のバットが寝た。とっさに高めに外そうとしたが、バットに当てられた打球が一塁線に転がる。三塁走者に生還された。
想定外だったのは相手も一緒だ。「まさか、と。サイン間違いかと思った」と村本。
そこでスリーバントスクイズを決めるのはさすがだが、窮余の策をとらざるを得ないほど、相手を追い込んでいた。
優勝候補筆頭との一戦。秋田の県立校の選手たちは「この試合で負けたら引退」と言葉を掛け合って臨んだという。技術も経験も大阪桐蔭が上かもしれないが、気持ちで負けては始まらない。最後の大会だと思い込むことで自分たちを奮い立たせた。
確かにこの日の森岡の99球には、「最後の夏」をほうふつさせるような鬼気迫るものがあった。
「初戦を見て大阪桐蔭の打者は外角が強いと思っていた」と捕手の柴田大翔(だいと)。角度のある直球で内角を臆せず攻め、鋭いスライダーで打たせていく。
無四球で完封した2回戦の石橋(栃木)戦から一転、四つの四球を与えたのはそれだけ厳しいコースを攻めたから。「相手は同じ高校生。すごいとか、上にみないで戦うつもりだった」と森岡は言う。
大阪桐蔭が出場14回目の選抜、12回出場の全国選手権を通じて、2安打に終わったのは、この試合が初めてだった。スリーバントスクイズのサインを出した大阪桐蔭の西谷浩一監督には「本当は打って取らないといけない。ここまで打てないとは思っていなかった」と言わせた。
工藤明監督は大会前、話していた。「諦めない姿を見てもらい、『公立の星』とまではいかなくとも『明かり』になれれば」と。
強い光を放って、敗れた。(佐藤祐生)
●工藤明監督(能) 「森岡大智を中心に守備からリズムを作って、相手より先に崩れないことは甲子園でもできたので及第点。あとは打撃の積極性」