朝はソワソワの山梨学院・林、マウンドでは度胸全開、熱くクレバーに
(27日、第95回記念選抜高校野球大会3回戦 山梨学院7―1山口・光)
山梨学院のエース林謙吾は根っからの「びびり」だという。
学校の寮から室内練習場までの100メートルほどの距離でも、夜道を1人で向かうのは心細い。この日も朝からソワソワ、朝食ものどを通らない。ベンチでも手が震えていたのに、なぜだろう。
「マウンドに上がった瞬間に、度胸がよくなるんです」
一回表の守り。
「よしっ」「うりゃ」
投げる瞬間に声を張り上げながら、空振り、見逃し、見逃し。3者連続三振と最高のスタートを切った。
打席でも、熱い。
同点の五回、1死三塁からバットを指2本分短く握って、食らいつく。右前へ勝ち越し打を運び、右手を突き上げながら一塁へ向かった。「気持ちで持っていきました」
ぐんぐん、背番号の数字が軽くなった。
内野手から本格的に投手に転向した昨秋、背番号20で臨んだ県大会で3試合に先発した。10になった関東大会は全4試合に先発し、1完投で優勝に大きく貢献。そして、明治神宮大会では1を背負った。
130キロに満たなかった直球の球速もぐんぐん、増した。急成長したのは、周囲の選手が「練習量は断トツでチーム一」と言うほど、全体練習後の自主練習で走り込み、投げ込んだからだ。
「こんなに伸びた選手は初めて」と吉田洸二監督(53)も驚くほどの成長曲線を描いた。
エースとして迎えた今大会は、1、2回戦ともに1失点で連続完投。この日も八回途中1失点と好投し、チームを選抜、全国選手権を通じて初の8強に導いた。
熱さだけでなく、クレバーさも持ち合わせる。
同じ進学コースの約200人のなかで、テストの順位はいつも1桁。得意科目は歴史と数学で、試験前には寮の学習部屋で部員の講師役を務めることもある。
勉強で鍛えた記憶力と分析力が投球にも生きているそうだ。光打線が直球狙いできていることを察知するや、2巡目以降は変化球中心の配球に変えた。
「相手の傾向を頭に入れ、投球を組み立てる。考えながら冷静に投げられました」
準々決勝の相手は同じ関東の作新学院(栃木)。勝てば、山梨勢として第63回大会(1991年)の市川以来、32年ぶりの4強となる。
試合後に伝え聞くと、「えっ、そうなんですか。それは緊張しますね。でも、あまり考えずに頑張ります」。
またソワソワ、ドキドキしながらマウンドに上がる瞬間を待つ。(山口裕起)
○吉田洸二監督(山) 選抜、全国選手権を通じて初の8強入り。「甲子園を楽しめた。選手も中盤にゆとりができたのか、リラックスしたスイングにつながった」
▼山梨勢が春夏通算70勝 第1試合で山梨学院が光(山口)に7―1で勝利し達成。選抜27勝26敗、選手権43勝57敗。