初戦で敗れた21世紀枠の3校 それでも勝ち負けを超えた価値がある
(24日、第95回記念選抜高校野球大会2回戦 山梨学院4―1富山・氷見(ひみ))
一回表の守り、山梨学院は21世紀枠で30年ぶりに出場した氷見に1点を先行された。
吉田洸二監督(53)は一塁側の相手アルプス席が大歓声に包まれるのを見て思った。「いい試合にしよう」と。
吉田監督は清峰(長崎)の監督だった2004年に21世紀枠の九州地区候補校になりながら、選考で漏れた経験がある。
清峰がある佐々(さざ)町は、炭鉱の閉山に伴い過疎化と高齢化が進んでいた。01年に就任した吉田監督が地元出身の選手を鍛え、弱かったチームは力をつけていった。そして、候補校に選ばれ、町は熱気を帯びた。
「センバツ出場おめでとう」と書かれた長さ7メートルの垂れ幕が用意され、OB会は町内の商店街などに「応援しよう」と書いた看板数百枚を立てたという。
しかし、吉報は届かなかった。
吉田監督は「選ばれなくて大騒ぎになった。生徒たちは落胆して、ホームルームはお通夜みたいだった」と振り返る。
悔しさと地元の落胆がバネになった。
05年の第87回全国選手権で清峰が甲子園初出場を果たしたとき、私は長崎総局の担当記者として同行した。1回戦で春夏連覇をめざした愛工大名電(愛知)を、2回戦で前年の選抜を制した済美(愛媛)を破った。スタンドも地元もお祭り騒ぎだった。
夏春連続での甲子園出場となった06年の第78回選抜大会で準優勝し、エース今村猛(元プロ野球広島)を擁した第81回大会(09年)で長崎勢として初優勝を遂げた。
氷見も清峰と同じく地方の県立校だ。部員17人のうち16人が氷見市出身。市内唯一の高校の30年ぶりの選抜出場に、過疎化が進む港町は沸いた。
この日は地元からバス24台で応援団がやってきた。丸山孝史さん(47)は前回出場時の二塁手。「もう一回甲子園に来られたから、また町は元気づくと思う」
氷見が逆転で敗れ、石橋(栃木)、城東(徳島)とともに今大会の21世紀枠3校はすべて初戦で姿を消した。
21世紀枠同士の対戦を除けば、第87回大会(15年)の松山東(愛媛)を最後に8大会、勝利がない(20年は中止)。
ただ、勝ち負けでははかれない価値がこの制度にはあるのではないだろうか。
鮮やかなブルーに染まる氷見のアルプス席に足を運んでみて、そう思った。(辻健治)