近江牛の里に響いた打球音 努力続ける息子のために、父は一肌脱いだ
選抜大会初優勝をめざす履正社(大阪)の4番は坂根葉矢斗選手(3年)。打球の鋭さと飛距離が売りだ。攻撃の要といわれるまでになったのは、活躍を心待ちにする家族の支えがある。
坂根選手は滋賀県竜王町出身。近江牛の発祥地で知られ、田畑が広がる農業のまちだ。中学生時代は地元のクラブチームでプレーした。
所属チームは、多くの選手が小学校から硬式球を使っていた。中学までは軟式球でプレーした坂根選手は「みんなに近づかなあかん!」と焦っていた。
家でも毎日バットを振り続けた。そんな姿に、家族が一肌脱いだ。
夏はスイカやキュウリ、冬は大根や白菜など、季節の野菜で食卓をにぎわせた家庭菜園を改造することにした。
坂根選手の父で地元で建設業を営む将之さん(46)が重機を使って土地をならし、鉄パイプを組み上げ打撃ケージを作り上げた。
その中に、中古で購入した投球マシンも置かれた。坂根選手は目の前に広がる田畑に向けて打撃練習を繰り返した。
祖父母の好三さん(70)と桂子さん(70)も孫のがんばりに応えた。2人は坂根選手の小学校時代から練習試合に欠かさず駆けつけていたという。
「雨でも練習したい」という坂根選手の希望を聞き入れ、倉庫を購入した。雨が降った時、トスバッティングができるように環境を整えた。
実家の家族7人は誰も野球経験がなかった。それなのに、坂根選手の中学3年間で「野球選手の家」に様変わりした。
「勉強は苦手だけど、野球になるととことんやり抜く性格」という坂根選手。旬の野菜と引き換えに、打撃能力はぐんぐん上達していった。
平日の夕方や週末、坂根選手の練習風景は地元でもほほえましく受け入れられた。ケージから「カキーン!」と打球音が響き始めると、地元の人たちは「今日も葉矢斗君、やっとるな」と応援してくれたという。
試合当日は、約70人が地元からバス2台で応援に駆けつける予定だ。
坂根選手は「応援してくれた家族のためにも期待に応えたい。甲子園では優勝を目指したい」と意気込んだ。(岡純太郎)