大歓声の甲子園で「声が通らない」 ジェスチャーで工夫する選手たち
(20日、第95回記念選抜高校野球大会第3日)
4年ぶりに戻ってきた歓声が選手を驚かせている。
いまの3年生は新型コロナウイルスの影響が拡大して約1年が経った2021年春に入学した。
吹奏楽や大声での応援が制約されてきた時期に重なる。昨年の選抜、全国選手権大会では吹奏楽の応援が認められたが、声が加わるとその迫力はさらに増すようだ。
第2試合に登場した広陵(広島)の田上(たのうえ)夏衣(かい)は昨年の大会に左翼手として出場した。この日は中堅で先発し、「迫力が違った。去年より声が全然通らない」。
配球によって1球ずつ両翼の外野手にポジショニングを指示する立場だが、うまく伝わらなかったという。3回戦に向けて改善策を考えるという。
昨夏の全国選手権に代打で出た二松学舎大付(東京)の右翼手五十嵐将斗は「声では難しい」と試合中に、二塁手にジェスチャーで指示してほしいと頼んだ。
昨夏は投手で先発し、この日は左翼を守った大矢青葉は、三塁手や遊撃手に指示を飛ばしたが、三塁側アルプスの広陵の応援にかき消されてしまったという。「こんな経験はなかった。得られたものも多かった。夏につなげていきたい」
第1試合に登場した海星(長崎)と社(兵庫)は指示が通りにくいことを想定して試合に臨んだ。
海星の外野手たちは事前に「応援が鳴りやんでいるときにコミュニケーションを取る」と決め、社も必ず外野手同士で目を合わせてから、指示を送り合うことにしていたという。
19日の作新学院(栃木)―大分商。2点を追っていた大分商の九回の攻撃で、1死一、二塁から打球判断を誤ってしまった一塁走者の江口飛勇(ひゆう)は、試合のなかで球場の歓声の大きさに徐々に冷静さを失ってしまったという。
試合後、「こんなに迫力があると思っていなかった。いっぱいいっぱいになって頭が真っ白になった」と話した。
新型コロナによる制約が少しずつなくなり、かつての声援が戻ってきたことによって、大会は活気づいている。ただ、この球場での大声援やどよめきは球児の背中を押すだけでなく、ときに心理面に影響を与えてきた。
この春は、そこへの準備、対処もポイントの一つになるのではないか。(堤之剛)