2打点の活躍、最後は塁を踏み忘れ 大分商の打者「これが甲子園か」
(19日、第95回記念選抜高校野球大会2回戦 作新学院8―6大分商)
新型コロナウイルスの影響で、高校生になって初めて受けた「声出し応援」だった。
それは力にもなり、重圧にもなった。
大分商の江口飛勇(ひゆう)は、初の大舞台で体に響いてくるのを感じた。
「これが甲子園かと。今までにない感覚。(声出し応援は)打席に入ってから背中を押してくれた」
5番打者は、ともにチーム最多の3安打、2打点と打線を引っ張った。この日のチーム初安打に、適時打2本。六回無死満塁では、真ん中に入ってきた123キロを中前へ。九回1死一、三塁では「どんなヒットでもいいからつなごう」と右前へはじき返し、2点差に迫った。
盛り上がる場内。その大声援で、江口は視野が狭くなってしまっていたという。
「圧倒されるような相手の応援で(守備の面で)連係が難しい」。右翼の守備でスタンドから受けた圧を、ベースの上でも感じていた。
「塁に出ると、いっぱいいっぱいになって頭が真っ白になった。こんなに迫力があると思っていなかった」
その圧が、ミスにつながってしまった。
自身の安打後に迎えた九回1死一、二塁の好機。丸尾櫂人(かいと)が左翼方向へ大きな飛球を放った。江口は勢いよく一塁から走り出した。「抜けると思った」
しかし、打球は左翼手のグラブに収まった。
「必死で(一塁に)戻った。ただ、戻ったとき、雰囲気がおかしかった」
審判団の協議の後、プレーが再開され、作新学院側のアピールでアウトが宣告された。
試合終了後、審判が球場でアナウンスした。
「一塁走者の帰塁の際、二塁を踏まずに一塁に戻ったとアピールがありました。正式にアピールがある前に、二塁塁審がアウトの宣告をしました。大変、申し訳ございません。新たにプレーを再開した上で守備側がアピールし、アウトといたします」
試合は終わった。
目を真っ赤にして江口はわびた。
「自分の判断ミス。チームに迷惑をかけて申し訳ない。点差も追いついてきて、自分のなかで冷静な判断ができなかった。とにかくホームを踏みたいと思って」
試合後、チームメートは「しゃーない」とかばってくれた。それでも、悔しさが残った。
江口は誓う。
「ここに来る前は、ここで試合をしたいという思いだった。情けない終わり方をした。夏、ここにきてリベンジを果たしたい」
言葉に、力がこもっていた。(堤之剛)