術中にはまった智弁和歌山 緩い球は振り回してはだめ 高嶋仁の目
■智弁和歌山前監督 高嶋仁の目
(19日、第95回記念選抜高校野球大会2回戦 香川・英明3―2智弁和歌山)
右横手の軟投派から左上手へ。智弁和歌山は、英明の術中にはまってしまいました。継投策の前に、打者が力任せにバットを振り回してしまい、頭の中が整理できていないように見えました。
英明の先発、下村健太郎選手は外の変化球をうまく使います。こういう緩い球を投げる投手を力任せに打とうとすると、ポップフライになってしまいます。
緩い球には軽い力で。トス打撃のようにバットを軽く合わせて、逆方向を狙えばいいのです。
その意識ができていれば、右打者なら一塁線に、左打者なら三塁線にファウルが出ます。それが点が入り始めるサインなのですが、なかなか見られませんでした。
1点を先制された直後の六回、先頭の左打者、松嶋祥斗選手の左前安打から2死三塁とし、杉本颯太選手の中前適時打で同点に追いつきました。二人は振り回さずに軽い力で合わせる打撃ができていました。
タイミングが合ってきたとみるや、英明は七回から左腕の寿賀(すが)弘都選手に継投してきました。
智弁和歌山打線がやるべきことは変わりません。振り回さずに逆方向に。左投手対左打者でも、遊撃手の頭上をねらう打撃を心がければ安打は出ます。
ですが、下村選手の投球が尾を引いていたのでしょう。振り回す打撃を最後まで続けてしまいました。
八回に1点差に追い上げ、なおも1死満塁の好機を築きました。この時点ではまだつきが残っていました。しかし、続く多田羅(たたら)浩大選手は高めのボール球を引っ張り一ゴロに。次打者も中飛に倒れました。
三塁側の智弁和歌山のアルプス席はびっしりと埋まっていました。声出し応援も戻ってきました。「勝たなければいけない」という気持ちが、力みにつながったのでしょう。
選抜大会の良いところは負けてもまだ夏があるということです。もう一つ力を付けて甲子園に戻ってきてほしいですね。
対照的に英明は一回から各打者が良い打ち方をしていました。点は入らないものの、序盤からセンター方向を中心に打球が飛んでいました。
八回2死一、二塁からの中浦浩志朗選手の勝ち越し適時打は、2球目に空振りしてしまったことを踏まえ、ミート中心の打撃に切り替えたことで生まれたように見えました。集中力を発揮してやるべきことをできていた印象があります。
先発の下村投手も持ち味を出して接戦に持ち込みました。
甲子園で一つ勝つということは選手にとって本当に自信になります。「おお、いけるぞ」と乗っていけるでしょうね。(前・智弁和歌山監督)