東邦、考えるバント 絶妙な小技生んだ心の余裕「練習の方がきつい」
(19日、第95回記念選抜高校野球大会1回戦 愛知・東邦6―3鳥取城北)
積み重ねてきた地味な練習のたまものだった。
1点リードで迎えた四回、無死一塁。東邦の岡本昇磨のバントは一塁線へ転がった。「切れるな!」。走りながら念じた。捕手が捕球を見送った打球はぎりぎりでフェアゾーンにとどまり、内野安打に。流れが変わった。
次の上田耕晟は初球で投手と三塁手の間を狙った。「前の打者のバントが安打になり、相手も焦っている」。心の余裕が、絶妙なバントを生んだ。再び、内野安打。無死満塁に好機が膨れあがった直後の初球、南出玲丘人(れおと)が右前へ適時打を放った。
宮国凌空(りく)がスクイズを決めるなど、この回だけで四つのバントを集めて3得点。主導権を握った。
東邦には「バント」という、シンプルな名称の練習がある。
打撃マシンでバント練習を繰り返すのではない。走者を置き、バッテリーと内野手全員を守らせる。
用意されるボールはかご4箱。一球ごとに、一、三塁手が打者に猛チャージをかけ、全力でアウトを取りに来る。過酷な状況のなか、打者は走者を進塁させなければいけない。
スリーバントでアウトになれば、「グラウンド1周」のメニューが追加されてしまう。「最多で一日で8周、走ったこともあります」と岡本は苦笑する。
この日、鳥取城北の野手もバントを警戒してきた。だが、岡本は「普段の練習のほうがキツいです」。
七回、中村騎士(ないと)が決めた投前への犠打も、終盤の貴重な追加点につながった。
2020年に就任した32歳の山田祐輔監督が徹底的にバントを鍛えるようになったのは昨年のチームから。きっかけは打力不足だった。「練習は大きい。守備の動きを見ながらバントをするなど、選手も自分で考えるようになってきた」と監督。攻撃力を補うために鍛えた小技が強みとなり、研ぎ澄まされてきた。
山田監督は「バントだけでなく打撃そのものも良くなってきた」と言う。選手の視野が広がったことで、打撃勘も磨かれてきた。チームは昨秋の公式戦で、今大会の出場36校で3番目に多い111得点を挙げた。まさに相乗効果だ。
東邦が前身の東邦商時代から、選抜大会で積み上げた勝利数は57。あと1勝で、歴代最多の愛知・中京大中京と並ぶ。(山田佳毅)
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○山田祐輔監督(東) 監督として甲子園初勝利。「めちゃくちゃうれしい。ミスもあったがしっかり粘ってくれて勝ちをつかめた。選手に感謝です」