手に残る「あの感覚」今も 大阪桐蔭、村本選手の忘れられない甲子園
第95回記念選抜高校野球大会2回戦で、大阪桐蔭は春連覇をめざし、敦賀気比(福井)と対戦する。
大阪桐蔭の内野手、村本勇海選手(3年)には甲子園での忘れられない「1打席」がある。
昨夏の全国選手権。2回戦で聖望学園(埼玉)と対戦した。
前田悠伍投手(3年)を除くと、下級生の野手としてただ1人、ベンチ入りしていた。
大量リードした八回、村本選手に代打で打席がまわってきた。
人生で初めての甲子園の打席へ。吹奏楽部が奏でる応援歌に、包み込まれるような感覚を覚えた。
目の前には、小さいときから何度もテレビで見てきたバックスクリーン。「これまでに試合をした、どの球場とも違う不思議な感じでした」
初打席だったが、点差もあり緊張感はなかった。「期待に応えたい」一心だった。
初球を見極めた直後の2球目。
直球を振り抜くと、鋭い金属音が甲子園に響いた。バットの芯でとらえた速い打球は二遊間を抜け中前へ。初打席で初安打になった。
いつも以上にしっかりバットが振れた。「高校野球生活の中で一番うれしくて、自分の財産になりました」と振り返る。
この冬の強化練習では「あの夏の感覚」を頼りに、バットを振り込んだ。
選抜の切符をつかみ、ふたたび甲子園で戦うことになる。
初戦の日が近づき、少しずつ緊張感が高まる。昨年の選抜で優勝した先輩たちが、大観衆の中でも正々堂々とプレーしていたことを思い出す。「なんで普段通りの野球ができたんやろ」と、その偉大さを実感する。
「今はプレッシャーよりも、ワクワク感の方が強い。チャンスにヒットを打ちたい」と意気込む。
そして拳を握りしめながら笑顔でこう答えた。
「あの夏、あの打席の手の感覚をもう一度甲子園で味わいたいです」(岡純太郎)