「名物」の丸太ダッシュで鍛えた山梨学院 開幕試合で問われる真価
(18日、第95回記念選抜高校野球大会1回戦 宮城・東北―山梨学院)
その鍛え方は、山梨学院に移っても変わっていなかった。
ぶっとく、肩幅ほどの丸太をつかったトレーニング。
長崎の県立高校である清峰で、春夏計5回甲子園に出場し、2006年選抜高校野球大会で準優勝、3年後の同大会で県勢初の初優勝に導いたときにもやっていた。
吉田洸二監督が穏やかな顔をして笑う。
「大人になったとき、お酒を飲むときの話題として振り返ってくれれば。ある意味、昭和でしょ。新しいものに積極的にアプローチしながらも、変わらないものはある。不易流行の精神です」
トレーニングで負荷をかけるとき、「メディシンボール」を使うことがある。ただ、そうした道具は高価なため、多くを購入できない。丸太はそれよりも安く、効果はそうそう変わらない、というわけだ。
監督の知恵と工夫から導き出された丸太の重みが、選手の脳裏に深く刻まれるのは冬休み前。
グラウンドで丸太を持ちながら130メートルの距離を走って往復する名物のトレーニングだ。
1分ほどのインターバルを挟んだあと、次は丸太を置いて走る。それを繰り返し、ダッシュの数は65本を数えた。
■「ポジティブに考えて、楽しもうと」
エースの林謙吾(3年)はちょっぴり顔をしかめて思い出してくれた。
「きつい、すね。地獄でした」
「でも、キャプテンや、みんなと声を掛け合って、なんとか全員でやろうと。一人でも誰かが脱落していたら、みんなも無理となっていましたが、全員が頑張れたんで。あれ以上、きついことをしているところはないと思う。自信になりました」
文字通り、チームを引っ張った進藤天(てん)主将(3年)はどうだろうか。
「ポジティブに考えて、楽しもうと。苦しいときにいかしたいです」
吉田監督が13年から山梨学院を指導するようになって、今年で11年目。より野球に集中できるよう、設備や環境は私学の中でも群を抜いている。
18年にグラウンドが人工芝になり、トレーニング室には酸素カプセルが常設されている。グラウンドに隣接する寮には3人に1台の割合で洗濯機、乾燥機がある。練習以外に時間を取られることのないようにするためだ。
ハード面だけではない。監督の長男である吉田健人部長はいう。
「上下関係といった、いらないものは取っ払っています」
自分のことは自分でやる、というのが原則。下級生が、上級生のユニホームなどを洗濯するようなことはない。
学校側のサポートが充実してきたのは、戦績を積み重ねてきたからだという。
「山梨に来てから、甲子園に出るまでは苦戦しましたね」
吉田監督はそう振り返る。
実際、就任してから最初の3年間で甲子園に出たのは14年の選抜大会だけだったが、その後は毎年のように甲子園に出られるまで力をつけてきた。
秋季の関東大会は過去4年のうち、3回で決勝に進み、昨秋は29年ぶりに優勝した。
ただ、監督が就任してから昨夏までに、選抜大会と全国選手権に合わせて9回出場しているものの、初戦を突破したのは2回だけで、3回戦には進めていない。20年の選抜大会は出場校に選ばれたが、コロナ禍で中止となった(同年夏にあった、選抜出場予定校による甲子園交流試合では勝っている)。
今春は3季連続の甲子園大会になるが、過去2季はともに勝っていない。
昨春は木更津総合(千葉)に延長十三回、タイブレークの末、1―2で惜敗。昨夏もエンジンのかかりが遅く、天理(奈良)相手に九回に1点を返すのがやっとで1―2と競り負けた。
甲子園でいかに勝つか。
その壁を打ち破るカギは、どこにあるのか。
選手たちはどう思いを深めているのか。
■「個人の力で勝たないといけない」
1年生から4番に座る高橋海翔(ひろと)(3年)の考え方はこうだ。
「地方大会や関東大会までは、監督や部長の指示がグラウンドでもよく通る。でも、甲子園ではなかなかそうはいかなかった。個人の力で勝たないといけない」
昨年の春夏の甲子園でともに先発マスクをかぶった佐仲大輝(3年)は「いつもなかなか打てなくて、投手戦になる。いまのチームは甲子園を経験している選手が多い。その分、落ち着いて試合に入れると思うので、初回から自分たちのペースでできるか」。
エースの林は新チームになるまで公式戦で投げたことがなく、過去2季の甲子園はスタンドから応援してきた。初戦で敗れた昨秋の明治神宮大会の経験が胸に残る。
「神宮では自分の力を出せなくて」
それは、なぜ?
「周りに意識が向いていて、落ち着いて入れなかった。もっと自分に意識をむけて、自分のボールを投げる、という思いを心がけていきたい」
いまのチームから初めて、その代のテーマをつくるようになり、「俺達(たち)はチャレンジャー」と掲げてきた。
吉田監督は言う。
「この言葉の作成に、自分は関わっていない。以心伝心というか、そこがすごいところ」
そして興味深い言葉を残してくれた。
「甲子園で、もうちょっとやれるだろうというのが続いている。そう思った時点で何かと比べている、ということ。初出場なら比べるものがない。そういった気持ちでやれたらいい」
山梨学院は18日の開会式直後に登場し、昨秋の東北大会で準優勝した東北(宮城)と対戦する。いかに早く自分たちが思い描く野球に持ち込めるか。その真価をいきなり問われる開幕試合となる。(笠井正基)