ダルに憧れ、東北に進んだエース 「想定外」経て甲子園のマウンドへ
選抜高校野球大会で18日の開幕試合に登場する東北高校(仙台市)の野球部の室内練習場が人工芝に変わったのは、3年前だった。
卒業生で、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3大会ぶりの世界一をめざす日本代表「侍ジャパン」の投手陣を支えるダルビッシュ有(米大リーグ・パドレス)らが寄付した。選手がさらに野球に打ち込める環境が整った。
ダルビッシュに憧れ、その育った環境で自分も飛躍したい。地元の強豪校の誘いを断って東北高校の門をたたいた一人が、エースのハッブス大起(3年)だ。
「野球が楽しいと思えるのは、ダルビッシュさんのおかげ」
埼玉県出身で米国人の父と日本人の母との間に生まれ、身長は188センチ。ダルビッシュはイラン人の父と日本人の母を持ち、身長も196センチと高いなど共通点も多い。
ダルビッシュに憧れるようになったのは、小学5年の時。父から米国出張のお土産でもらった大リーグカードがきっかけだ。たまたま入っていたのが、ダルビッシュだった。
自分と似た境遇で、しかも日本人として大リーグで活躍。お気に入りのカードとして、机に飾った。
調べてみると、遊び心で変化球を身につけ、野球を楽しむことに重きを置いていると知った。
「さらにほれ込んだ」
中学生になって140キロ超の速球を投げられるようになった。地元・埼玉や関東の強豪高から誘われた。
それでも、迷わず選んだのは、東北高校だった。
入学して、教員にダルビッシュが過ごした練習場や寮を教えてもらい、ひそかに喜びをかみしめた。
誤算もあった。宮城県内のライバル・仙台育英にほとんど勝てなかったのだ。
東北は2016年夏を最後に甲子園から遠ざかっており、昨夏の宮城大会では準々決勝で敗退。仙台育英は東北勢初の全国制覇を成し遂げた。
厳しい練習が続くなか、絶望した。
「自分たちは弱いのか」
チームの雰囲気が変わったのは、宮城大会の直後に佐藤洋監督が就任してからだ。
プロ野球・巨人OBの新監督のモットーは「野球を楽しむ」。髪形や服装は自由、練習メニューも選手たちに考えさせる「脱スパルタ」だった。練習場にも、Jポップが流れるようになった。
ハッブスは、理想的な環境に巡り合えたと感じた。
チームの成績も、上向いた。昨秋の県大会では決勝で仙台育英を破って優勝。東北大会では、決勝で仙台育英に敗れたものの、今年1月に12年ぶりの選抜大会行きを決めた。
ハッブスは今も、ダルビッシュの動画を見るのが日課だ。
この冬に身につけたツーシームは、ダルビッシュの握り方をまねた。走者を背負ったときに動揺して表情に出やすい精神的な弱さも、克服したい。
ダルビッシュのWBCでの登板には「熱狂的なファンなので、試合を楽しみに夢を見させてもらいたい」。WBCは準々決勝からトーナメントで、1戦の重みは甲子園での戦いとも共通している。
自身も選抜大会で、甲子園の舞台に立つ。開幕試合の相手は、昨秋の関東大会を制した山梨学院だ。
「『大人の投球』をして、ダルビッシュさんに少しでも近づきたい」(武井風花、三井新)