アルプス席にいたあの夏 糧に 選抜出場の能代松陽
18日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する第95回記念選抜高校野球大会。昨夏に続く甲子園出場の能代松陽(秋田)は、10日に抽選会を控えている。
雪に覆われた能代松陽のグラウンド。外野手の神山(こうやま)芯平(2年)は、ほかの選手と室内練習場でトスバッティングを続けていた。
昨夏、初戦で埼玉代表の聖望学園に2―8で敗れた甲子園。神山はその日、ベンチに入れず、同級生のプレーをアルプス席で見守っていた。
「甲子園って、大歓声と打球音が響くから、『すげー』って圧倒された」
能代松陽の前身は、能代商(能代北と統合)。同校で野球をしていた父親に連れられ、幼い頃から能代松陽の試合を見てきた。強くて、憧れのユニホーム。だが、甲子園のグラウンドで着る夢は、かなわなかった。
神山らベンチ外のメンバーは、甲子園の初戦の前日にバスで能代を出て、試合が終わるとすぐにバスで秋田に戻った。「アルプス席の入れ替えもバタバタで、余韻に浸る間もなかった。気づいたら終わっていた」
自分も出たかった。
「あそこでプレーした仲間をすごいと思う気持ちと、悔しさが残る」
女子マネジャーの佐藤愛羽(いとは、2年)も、あの日はアルプス席にいた。試合前のグラウンド練習が印象に残っている。「甲子園は広くて、選手たちが小さく見えた。遠い存在になってしまったように感じた」
試合は序盤からリードを許す苦しい展開。そんな中、同学年の大高有生が靴ひもを結び直した姿を覚えている。「ゆっくりと時間を使って、気持ちを切り替える時間をみんなに与えているのかな?」
4点を追う六回。2年生ながら4番に座った斎藤舜介が1死満塁から2点適時打を放った。「まだ3年生を引退させたくないっていう熱を感じた」
でも、反撃は及ばず。短い夏が終わった。
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自分たちの代になり、佐藤は朝練のために午前7時に部室に来て、練習が終わる午後7時半ごろに帰宅する日々をおくっている。
新チームには甲子園を経験したメンバーが多く残る。「果たせなかった甲子園での勝利。それが明確な目標になった。だから、『そんな練習じゃダメだ』って言い合ったり、苦しい練習も声を出して乗り越えようとしたりしている」
そんな姿を間近で見ているからこそ、思える。
「こんなに頑張っているのだから、絶対に甲子園で勝ちたい。夏のリベンジをしてくれる」
新チームで、神山は背番号をもらった。
その日、帰宅してすぐに両親に「背番号もらった」と言うと、「良かったなー」。特に父親が喜んでくれたのがうれしかった。
だけど、結果を求めすぎたのか、好機で打てない試合が続いた。昨秋の県大会は、途中からレギュラーを外され、ベンチに回った。
「俺の打席、外から見ていてどう思う?」。主将になった大高有生ら、周りにアドバイスを求めた。
すると、「積極性がないな」。みんな、遠慮なく厳しい言葉をかけてくれた。
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自分は実力で劣っている。だから、みんなより努力して、追いつきたい。
神山は、そう言い、甲子園を経験したエースの森岡大智に目を向ける。「あいつは、昨夏、自分が打たれて負けたと思っている。1年前とは練習中の表情が違う」
昨夏、自分は届かなかった憧れの舞台。いまも「試合に出られるかわからない」と自分で思う。だけど、あのグラウンドに立つチャンスがあるから、こう思うだけだ。「もう、悔しいとか、うらやましいとか、思いたくない。能代松陽のユニホームを着るからには、自分が甲子園でチームを勝たせたい」(敬称略)(北上田剛)