欲張らず、しぶとく 山梨学院の4番・高橋が食らいついた7球目
(31日、第95回記念選抜高校野球大会準決勝 山梨学院6―1広島・広陵)
1―1のまま、空気が張り詰めていた九回、山梨学院の4番打者高橋海翔(ひろと)に大きな場面が回ってきた。
安打と犠打で築いた1死二塁。
179センチ、80キロ。1年夏からこの打順を任され、通算44本塁打の強打者は冷静だった。
「大振りして嫌な思いはしたくない」
1年前の苦い記憶を胸に刻んでいた。昨春の選抜大会1回戦の木更津総合(千葉)戦。1―1の八回2死二塁で力んで変化球に空振り三振を喫した。そのまま延長十三回タイブレークにもつれ、1―2でサヨナラ負けした。
だからこの日の九回は「自分で決めるつもりはなかった」。
5球目。外角の変化球をすくうと、左翼ポール際に特大のファウルとなった。本塁打性の飛球に一塁側アルプスは俄然(がぜん)、盛り上がる。
でも、色気は出さない。
直球を見せられた後の7球目。外よりの落ちる変化球に食らいついた。大振りを自重し、つなぐ意識があったから体が開かない。ほぼ左手1本で拾って中前に運んで勝ち越し点を奪った。
この一打を起点に打線はさらに5長短打を重ねてこの回計5得点。再三のピンチで踏ん張り、1失点でしのいできたエース林謙吾に報いた。
幼い頃からバッティングは大の得意。小学生のときには打球を飛ばしすぎて、よく使うグラウンドの左翼側に自分のために防護ネットが追加で張られたほどだ。
選抜、選手権を通じて1大会で2勝したことがなかったチームが準決勝まで駆け上がった。対する広陵は選抜優勝3度。同じポジションには通算51本塁打を誇り、大会ナンバーワンの打者と言われる真鍋慧(けいた)がいる。
準決勝前、控え捕手の岩本健太が円陣で言った。「あこがれるのはやめましょう」と。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝前の大谷翔平(エンゼルス)をまねた一言に「盛り上がった」。
山梨勢が春夏通じて7戦全敗だった準決勝を突破した。ここまで9安打と好調な中心打者は、「とにかくチャレンジャーの気持ちで戦いたい」。紫紺の優勝旗をつかみにいく。(安藤仙一朗)