歓声にのまれた夏のリベンジ誓う 選抜出場の能代松陽
第95回記念選抜高校野球大会が18日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する。能代松陽(秋田)は昨夏に続き、2季連続の甲子園に臨む。「もう一度、あの舞台に戻れる。必ずリベンジしたい」。選手らは、口をそろえる。
昨年8月10日。能代松陽の選手たちは夏の甲子園の初戦で、聖望学園(埼玉)との試合に挑んだ。
二回から五回まで1点ずつを奪われ、0―4と劣勢に。六回に2点を返したが、七、八回に計4点を追加され、2―8で散った。
0―3で迎えた五回裏の守り。先発した3年生エースを継投した森岡大智(2年)はマウンドで「こんなに観客が入った球場で投げたことない」と思った。
そして、自分に言い聞かせた。「周りの景色を見たらビビるから、前だけ向こう」
幼い頃から憧れていた甲子園のマウンド。緊張もしたけれど、「それよりもアドレナリンが出まくっていたから、思った以上の球を投げられた」。それでも、コンパクトに振る相手打線につかまり、8安打を浴びて計5失点。
試合後、ベンチ前で3年生エースとキャッチボールした。涙を流す背番号1に「来年も絶対にここに来いよ」と言われると、こらえていたものがあふれた。
「俺が3年生の夏を終わらせてしまった」
この試合、一番打者として、大高有生(ゆうき、2年)はチーム唯一の2安打を放った。森岡と同じように大観衆に圧倒されていた。
「外野まで人がいっぱい。グラウンドに出てすぐ、『わー』と思った」
攻撃の時間は短く、守ってばかりいるように感じた。相手の得点のたびに球場が沸く。「経験したことがない大声援。アウェーだと感じてしまった」。守りながら「ヤバい」と漏らしたことを覚えている。
その日の夜、宿舎の部屋に、ある3年生が来てくれて、ベッドに寝転びながら話した。いつも明るく周囲を盛り上げた先輩が言った。「来年は頼む」
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新チームが発足し、森岡は背番号1を受け継いだ。先輩エースの直球の軌道を思い描きながら練習を続けた。直球が右に流れるクセを修正するため、体の開き具合を確認しながらシャドーピッチングを繰り返した。
昨夏の甲子園を経験したことで、意識の面でも変化があった。昨夏までは全力で三振を狙っていた。
「今は甲子園を経験した仲間が後ろで守っている。打たせて取ろう」
大高は新チームで主将になった。だが、練習試合では負けが続いた。
甲子園を経験したメンバーが多く残ったとはいえ、3年生のバッテリーが抜けた穴は大きかった。
捕手で前主将の田中元輝の存在の大きさを思った。
「言葉でも背中でも周りを引っ張る『ザ・キャプテン』みたいな人」
田中に相談したかった。どうしたら勝てるのか、聞きたかった。でも、助言を求めなかった。
「今は自分がキャプテン。頼ってはいけない」
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すぐに秋の県大会がやってきた。
森岡は5試合すべてに先発し、明桜などライバルを倒して頂点に立った。東北大会では準々決勝で延長十二回の熱戦を制し、準決勝で昨夏の覇者・仙台育英に1―2で惜敗したが、春の切符をつかんだ。
主将の大高は昨夏の敗退を報じた新聞などは見ないように遠ざけてきたという。昨秋はいずれもチーム最多の長打5本、計9打点の活躍で、打線を引っ張った。それでも、悔しさは残ったままだ。
「3年生のためにも、まずは甲子園での1勝を全員野球でつかみたい」(敬称略)(北上田剛)