今度こそ「ぶれない野球」を甲子園で 昨夏の悔しさ糧に 海星の主将
学校から車で30分ほどの場所にある海星三和グラウンド(長崎市宮崎町)。ベンチのボードには異なる大きさで「技」「体」「心」の文字が刻まれている。「技」よりも「体」、「体」よりも「心」が大きい。
県内屈指の強豪校。甲子園をめざして集まる球児たちはどうしても技術を求めたがる。体力をつけたがる。だが、土台にある「心」が未熟だったら、技術も体力も思うようには伸びない。そんな意味が込められている。
その言葉を選手の口から聞いたのは昨夏の甲子園の第3戦。近江(滋賀)に敗れた後の会見だった。
長崎大会の全5試合で1だった失策がこの日だけで3。プロ注目のスター選手を擁する近江へと傾く観客の応援が重圧となり、自慢の堅守がほころんだ。
「心技体のうち一番大事にしてきた心の部分がぶれたのが敗因。リズムを崩し、守り合いに持ち込めなかった」。主砲の森誠太君(3年)が語った。
あのとき。二つの失策を記録したのが新チームの主将を託された田川一心(いっしん)君(2年)だ。1年生でスタメン入りし、三塁手として大舞台に立っていた。
「今まで味わったことのない雰囲気にのまれ、エラーを重ねてしまった。先輩たちに迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱい」と振り返る。
秋からは捕手にコンバート。リーダーの重責に加え、「扇の要」として全体を見渡し、吉田翔君(同)と高野颯波(そな)君(同)の「2枚看板」の個性を引き出す重要な役割を担うことになった。
沖縄であった九州大会。準決勝の沖縄尚学戦は「自分のせいで負けた」と感じている。
捕手になって日が浅く、配球の「引き出し」が少なかった。ブロッキングの技術も未熟だった。何よりも、心の余裕がなかった。
1点リードで迎えた九回裏。高野君が1死満塁のピンチを迎えた。次打者を追い込んだものの、6連続ファウルで粘られ、浮いた球を痛打された。ゲームセット。先に決勝進出を決めていた長崎日大との頂上決戦の夢を逃してしまった。
ワンバウンドの球を投げさせたり、1球外して一呼吸置いてみたり。いろんなアイデアが浮かんでいたら、展開は違っていたかもしれない、と悔やむ。
一戦必勝の高校野球はわずかな心の隙が命取りになる。ぶれない心を鍛えるにはどうしたらいいのか。
加藤慶二監督らからは「学校生活に隙があるやつは野球にも必ず隙がある」と繰り返し言われてきた。
「社会人に例えれば僕たちの仕事は学校。野球はその次だと思っています」。田川君も言い切る。
あいさつをする。授業に集中する。身の回りをだらしなくしない。へとへとになるまで練習に明け暮れる毎日。簡単なようで難しい。それでも「必ず野球に生きてくるから」と部内で徹底してきたという。
「平常心と不動心を大事にして甲子園に乗り込みたい」と田川君。
舞い戻るあこがれの舞台で、今度こそ「ぶれない野球」を見せつけるつもりだ。(三沢敦)