部員が選ぶコース別練習 公立校の柔軟発想に斎藤佑樹さん、ほっこり
■斎藤佑樹「未来へのメッセージ」 大阪・枚方なぎさへ
子どもたちの野球離れが進むなか、多くの高校の指導者が部員集めに苦労していると聞きます。
強制する部分を減らし、部活動への関わり方の濃淡を部員自身が決める――。そんな新しい形を模索している野球部が大阪府枚方(ひらかた)市にあると聞き、訪ねてみました。
1月の平日の放課後、府立枚方なぎさ高の校庭では、体育の補習で生徒たちが持久走をしていました。
野球部員は脇の通路で黙々とウォーミングアップを繰り返しています。体をほぐしたり、2人1組になって柔軟体操をしたり。
丸刈りの選手はいません。全員が長髪です。
授業のため遅れてやってきた2年生の植田恵太選手が、そこに加わりました。
これで選手8人、マネジャー2人の全部員10人が勢ぞろい。ノックや打撃練習が始まりました。
実は植田選手は1年生だった一昨年の12月、一度退部し、昨年10月に復帰した部員です。
「毎日野球をやるというのは体力的にもちょっと厳しくて。勉強面の不安もありました」
そんな理由で一度は部を離れた植田選手が戻って来たのは、部の活動そのものが以前と大きく変わったからです。
枚方なぎさも他の多くの高校と同じく、部員不足に悩まされていました。3学年で計12人しかいなかった昨年5月、危機感から打ち出したのが、それぞれの選手が自分の力や立ち位置に応じて、部活動の目的を選べる仕組みでした。
全6コースを設けました。
「主力選手として公式戦出場をめざす」
「公式戦出場をめざす 基礎編」
「公式戦出場をめざす 応用編」
「技術向上と体力強化をめざす」
「選手の体重・筋力値の数値管理」
「SNSの写真撮影」
コースによって練習時間や休日の数が異なり、一部は他部との兼部も可能です。
植田選手は一度は勉強に専念しようと考え退部しましたが、小学2年から続けてきた野球が生活からなくなったことに物足りなさも感じていたそうです。
「帰る時に友達が野球をやっている姿を見ていると、うらやましなあと思っていた」
そんな時に、野球部に個々で選べるコースができたことを知ったのです。
「技術向上と体力強化をめざす」コースを選択し、部に復帰しました。
このコースの場合、平日の練習は週に3日で午後6時半には下校することになっており、まだ練習を続ける仲間たちに一礼してグラウンドを後にすることが珍しくないといいます。
「高校野球って毎日やるものだと思っていたので、びっくりした。やっぱり自分の時間があると勉強もできるので、楽しい。いつかヒットを打ちたい」
植田選手の表情には充実感がにじんでいました。
むろん、チームとして勝利もめざしています。2019年秋の大阪府大会を最後に公式戦の勝利から遠ざかっていますが、目標は大阪でベスト16といいます。
白球を追う選手たちの表情は真剣そのもので、少人数でも練習には活気があります。
女子マネジャーは「SNSの写真撮影」を担います。チームのSNSで発信し、特色ある部をPRしています。
コース別募集を発案した野球部顧問の磯岡裕教諭(45)は言います。
「自分の意思で選択して、そこで責任を持って動いていくということは、これから世の中を生きていく上で大切なことだと思うのです」
深く共感しました。やらされる練習ではなく、自らが選んだ道だから、それぞれがより生き生きとしているのだと実感しました。
僕も早大時代に時間別の活動を経験したことがあります。授業がない時間帯に集まった部員同士が一緒に練習するもので、1日を五つほどの時間帯に分けてあります。
時間帯によって練習内容は異なり、それを含めて自分で選択するので、責任感が強くなり、考える力も養われたと思います。
甲子園がすべてではない。
柔軟に、一人でも多くの子どもたちが野球ができる可能性を探る。枚方なぎさで大切なことを学べて、なんだかほっこりしました。(斎藤佑樹)