選抜ならではの緊張感 「希望」と「不安」を抱えるチームを訪ねて
昨年11月24日、明治神宮野球大会・高校の部の決勝は大阪桐蔭―広陵(広島)のカードになった。
祈るような心境で、奈良からこの一戦を注視していた球児たちがいる。
約1カ月前の近畿大会準々決勝で、龍谷大平安(京都)に敗れた高田商の部員たちだ。
エースの仲井颯太は振り返る。
「授業が終わった後に先生が教室のスクリーンに中継を映し出してくれて、野球部以外の生徒も一緒になって見ていました」
そわそわしていたのは赤坂誠治監督(46)も同じだ。
「授業の合間に何度もスマホで速報を確認していました」
大阪桐蔭は四回までに5点を先行されたが、ひっくり返して連覇を決めた。
翌朝、赤坂監督は大阪桐蔭の西谷浩一監督(53)に思わず電話をかけた。「おめでとうございます」と。
今春の第95回記念選抜大会で、もともと近畿地区に割り当てられた出場枠は「6」だった。
各地区の優勝校が集う明治神宮大会で大阪桐蔭が優勝すれば、近畿地区に「神宮大会枠」が与えられ、出場枠は「7」となる。
近畿8強で当落線上にいる高田商にとって、大阪桐蔭がもたらしたこの「1枠」は希望を大きく膨らませてくれるものだった。
赤坂監督は、自身の経験から「子どもたちに甲子園でプレーさせてあげたい」との強い思いがある。
2013年秋に監督に就き、17年春の第89回選抜大会に出場した。初めて甲子園球場に足を踏み入れ、身震いがしたという。
1回戦で秀岳館(熊本)に敗れたものの、とりこになった。
「ワンプレーごとに観客の喜びようや落胆ぶりがベンチの中まで伝わってきたんです。それは他のどの球場でも経験できないもの。やはり甲子園は特別な場所だと感じました」
それ以来の選抜出場の好機を前に「他力本願」でもいい、との思いだったのだろう。
第95回大会の出場36校を決める選考委員会は27日にある。
「運命の日」を2日後に控えた25日、高田商を訪れた。
69人の部員は打撃練習、走塁練習、下半身強化に分かれ、汗を流していた。
「もっとできるぞ」「気合入れろ」。気の抜けたプレーには仲間同士でげきが飛び交う。
この冬、チームは例年よりも実戦的な練習を多く採り入れているという。まずは選抜を見据えているからだ。
主将の北嶋悠輝は言う。「甲子園で勝つことを目標に、冬の間から細かいプレーも徹底してやっています」
一方で、少し不安そうな表情を見せ、こう漏らした。
「僕たち、選ばれますかね」
49地方大会の優勝校が出場する夏の全国選手権大会とは異なり、選抜は前年秋の成績や試合内容、地域性などを考慮して出場校が選ばれる。
当落線上にあるチームはときに希望、ときに不安を感じながら、厳しい練習に打ち込むことになる。
北嶋はこうも言った。
「たとえ選ばれなくても、今やっている練習は無駄にはならないはず。夏に向けてしっかり力をつけていきたい」
近畿8強のうち大阪桐蔭のエースから4得点した彦根総合(滋賀)、総合力の高い履正社(大阪)は選出が濃厚で、高田商は最終7枠目を社(やしろ)(兵庫)と争う可能性が高い。選考委員会での意見は割れそうだ。
結果はどうあれ、緊張感に包まれながら練習に打ち込んだ秋から冬の長い時間は、選手たちを鍛えてくれたはずだ。
気温マイナス2度。小雪が舞うグラウンドに漂っていた熱気からは、たくましさを感じた。
それは社も、他地区で当落線上にいるチームも同じだろう。
27日、高田商は出場校が発表される時間帯もふだんどおりに練習をする予定という。
■昨秋近畿大会の上位 優勝=大阪桐蔭、準優勝=報徳学園(兵庫)、4強=龍谷大平安(京都)、智弁和歌山、8強=彦根総合(滋賀)、履正社(大阪)、社(兵庫)、高田商(奈良)(山口裕起)