高校野球でも感じる多様性 斎藤佑樹さん、通信制高校の球児に会う
■斎藤佑樹「未来へのメッセージ」未来富山へ
様々な学校に足を運ぶなかで、高校野球界にも多様性が広まりつつあると感じています。
2018年春、富山県に開校した通信制高校「未来富山」には、「とにかく野球をやりたい」という生徒が集まっています。
19年秋の県大会で4強に入り、昨秋の県大会、今夏の富山大会はともに8強と、急速に力をつけています。
専用グラウンドはありません。
1、2年生の部員全27人は県外出身で、魚津市の寮で生活しています。
平日の午前は寮と同じ施設で学習し、午後は球場を借りるなどして、約4時間の練習。夜間も室内練習場で打ち込みなどをしているそうです。
11月中旬、寮から25キロほど離れた立山町の球場での練習を取材しました。
金田凌駕(りょうが)主将(2年)は新潟出身。「野球に費やす時間が多いところにひかれた」と未来富山への進学を決めたそうです。
監督を務めるのは、岩瀬誠良(ともはる)さん(23)。17年夏に埼玉・花咲徳栄が全国制覇したときの遊撃手です。
「うちの練習はきついです」と言いますが、グラウンドにピリピリとした雰囲気はありません。練習する選手に追い込まれているような表情もなく、生き生きとしていました。
指導者たちとの会話も自然でフレンドリーです。
寮にも厳しいルールは設けていないといいます。
外出こそ制限しているものの、自由時間はスマートフォンでゲームをしたり、タブレットで映画を見たり。
自主練習をする部員もいれば、何かのヒントを得ようとユーチューブで野球の動画を見る部員もいるようです。
岩瀬監督は言います。
「『昔はこうだったよ』と押し付けても伝わらないので、今の子たちがやりやすいようにと考えています。時代に沿って変化していかないといけない」
厳しいルールによって野球に縛り付けられるわけではなく、選手自らの選択で野球に時間を割けるということなのだと理解しました。
未来富山には基本的に授業がなく、各教科の課題を提出し、定期的に実施される試験と面接指導を経て、卒業に必要な単位を取得していきます。
時間の融通が利き、長所を磨きやすいのでしょう。
他競技のトップアスリートが通信制高校を選ぶことが多いのも、うなずけます。
僕は高校時代、勉強が苦手でした。
試験で結果が出せなければ、自主練習の時間を削って勉強にあてなければならなくなり、夢だった甲子園出場もかなわなくなると思っていました。
だから、授業にくらいつきました。やらされていた勉強かもしれませんが、そのなかで「教わる」コツをつかみました。
通信制では、教わることよりも「調べる」コツが大事になってくるのだと思います。
アプローチは異なりますが、どちらも社会に出てから必要な能力です。
「正直、勉強が苦手な部分もあったので」という金田主将も、「野球に関わる仕事に就く」という将来の目標を見据えています。
好きなことと苦手なことと向き合う上で、未来富山はバランスがとれた選択肢だったのでしょう。
今春の選抜に出場し、秋の北海道大会でも優勝したクラーク国際や今秋の九州大会で8強まで進んだウェルネス沖縄など近年、通信制高校の活躍が目立ちます。
岩瀬監督は変化を感じ取ります。
「自分がやりたいことや夢中になれるものに特化できる学校があるなら、そっちを選ぶという生徒が増えているなと思う」
強さや弱さには関係なく、いろいろなタイプのチームがあっていいと思います。
大事なのは野球を通して、何かを学んでいけるということだと思います。(斎藤佑樹)