通算68本塁打の浅野が送りバント 馬淵野球の真骨頂 U18W杯
崖っぷちに立たされ、ようやく日本らしさが出た。
U18W杯のオランダ戦。負ければ、決勝はおろか3位決定戦への道も閉ざされる。試合直前に雨で試合開始が2時間50分遅れたが、選手たちの集中力は切れていなかった。
三回だ。
先頭の藤森康淳(こうじゅん)(奈良・天理)が一塁前にセーフティーバントを転がし、内野安打で出塁。四球で無死一、二塁とし、1番の浅野翔吾(香川・高松商)がきっちり送りバントを決めた。
高校通算68本塁打を放つ浅野は、高校3年間で一度も送りバントをしたことがなかった。サインが出たことがなかったという。
「バントもあると準備をしていたら、監督から『バントだ。送れ』と言われた。しっかり決められてよかった」
強打者の献身的なプレーに日本ベンチがどっとわく。次打者の黒田義信(福岡・九州国際大付)の二ゴロで藤森が先制のホームを踏んだ。
先発の川原嗣貴(しき)(大阪桐蔭)が無失策の野手陣に助けられながら、この1点を守り切り、5回無失点。あえて右ひじを下げて投げることで米国の高くて硬いマウンドに対応してみせた。「めっちゃ、いい感じで投げられました」
五回を終えたところで雨が激しくなり、降雨コールド勝ち。初優勝へ、状況は厳しいままだが、可能性を残した。
馬淵史郎監督の表情も明るかった。「よう、粘り強く戦ってくれた。ヒット1本で勝ったのは、(30年以上の監督人生で)おそらく初めてですわ」
安打は、藤森のバント安打のみだ。それでも四球を選んで小技を絡めて得点し、しぶとく守った。
8月28日に始まった国内合宿から、「バントができない選手、守れない選手は試合で使わんぞ」と言い続け、バントと守備の練習を繰り返しやってきた。
「スモールベースボール」。馬淵野球の真骨頂が、大一番で輝きを放った。(フロリダ州サラソタ=山口裕起)