聖光学院「力がない」世代が初の夏4強 純粋無垢な努力が実を結んだ
甲子園で初の4強進出を果たした聖光学院。入学当初から「力がない」と言われ続けた世代が、同校に新たな歴史を刻んだ。
「すごいチームですよ」
昨年7月の福島大会敗戦後。斎藤智也監督は、2年生中心のBチームを指導する横山博英部長から赤堀颯らの新チームについてこう言われた。横山部長はこうも続けた。
「打てません。点数は取れません。ただ、負けない予感はします。根拠はないです。ただ、純真無垢(むく)に自らを追い込んで、野球の神様が応援してくれるチームだと思います。簡単には負けないです」
横山部長の予言通り、赤堀らの代はその秋から県内公式戦無敗。東北大会は準優勝、今春には優勝を収めた。なぜ力のないチームが好成績を収めることができたのか。福島県高野連の木村保理事長は「夏に向け、確実にステップを踏んできた」と指摘する。
昨秋の県大会、東北大会でのチーム打率は2割6分7厘。少ない好機を生かし奪った得点を、エース佐山未来が守り抜く、という試合展開で勝っていた。
チームは冬の間、打撃力強化を掲げ、1日600~700のスイングを課した。また、多くの選手は体重増加にも取り組んだ。
努力の成果は結果として現れた。出場チームの中で下から2番目のチーム打率で臨んだ今春の選抜大会だったが、1回戦の二松学舎大付(東京)戦で10安打9得点と勝利した。
しかし2回戦では、準優勝した近江(滋賀)のプロ注目右腕山田陽翔の140キロ台後半の直球に苦しめられて打線がつながらず、「絶対的」エース佐山が打ち込まれ、敗れた。新たに「佐山に頼らない」「劣勢時、いかに流れを変えるか」「好投手をいかに攻略するか」という課題を突きつけられた。
選手たちは、この課題も克服する。6月の東北大会は4試合中3試合で逆転勝ち。決勝の東北(宮城)戦では140キロ超の右腕を捉え、4年ぶりに優勝した。
福島大会は足の負傷の影響で佐山の調子が上がらない中、打線は6試合中4試合で2けた安打を記録し、3試合でコールド勝ち。課題だった投手陣も左腕小林剛介が台頭し、佐山頼りのチームから脱却した。
また、日替わりヒーローも誕生した。選抜大会で背番号17だった狩野泰輝がレギュラーをつかみ、7番打者の伊藤遥喜は打率5割5分6厘、打点9とチーム一の成績を記録した。
今年の3年生は、過去2年間の3年生たちの涙を見て強くなってきた。入学した年は新型コロナウイルス感染拡大のため、夏の甲子園が中止に。昨年のチームは「聖光史上最強の世代」と言われ、史上最多タイとなる14大会連続の夏の甲子園出場を目指したが、準々決勝で敗退した。
赤堀は「力があった先輩たちが甲子園に行けないなら、力がない自分たちは、今のままでは絶対甲子園に行けない」。そう思い、チームメートと必死に向きあい、選手間ミーティングを重ねた。斎藤監督は「赤堀の考えに選手が共鳴していき、全員が同じ方向を見ていった」と振り返る。 甲子園で県勢51年ぶりの4強に進出した聖光学院の、1年間にわたる戦いを2回に分け振り返ります。(滝口信之)