泥臭く初安打→直後に華麗なHR 心の持ちよう学んだ明秀日立・武田
(15日、第104回全国高校野球選手権大会3回戦 明秀日立4―5仙台育英)
甲子園でホームランを打つ。そんな夢は捨てた。
「泥臭く、ボールに食らいつく」。明秀日立の武田一渓君(3年)は、それだけを考えて打席に立った。この日、打順は中軸を外れ、7番に下がっていた。
0―0で迎えた二回表、1死一、二塁。2ストライクに追い込まれた後の5球目、スライダーが外へ逃げていく。短く持ったバットの先に何とか当てた打球は、センターの前に落ちて転がった。
春の選抜大会から数えて甲子園の13打席目。ようやく飛び出した初ヒットは適時打になった。
春は根拠のない自信があった。「ホームランを打ちたい。自分なら打てる」。4番打者として臨んだ選抜大会は2試合ノーヒットに終わった。
悔しさを晴らそうと、打撃練習に取り組んでいた4月上旬、左手を骨折した。それでも2カ月後には復帰し、甲子園に戻ってきた。
だが、初戦でもヒットは出なかった。仙台育英戦の前日も、グラウンドで1時間半ほど打撃練習を続けたが、ボールを芯でとらえられなかった。
宿舎に戻ると、金沢成奉(せいほう)監督(55)が言った。「つまらないプライドを捨てよう。力を抜いてセンター方向に打とう」
結果にこだわらず、のびのびと楽しく野球をする。監督の一言で、忘れかけていたことに気づけた。
四回には相手エースが投じた2球目の直球を振り抜いた。打球は浜風に乗って左翼ポール際に吸い込まれ、拳を突き上げた。「前の打席のヒットで、気持ちにゆとりができたのが大きかった」。あきらめたはずのホームランが打てた。
試合には敗れた。「高校野球はつらいことばかりだった。でも最後にこういう野球ができてよかった」。試合後の会見で振り返る表情に、涙はなかった。(西崎啓太朗)