県岐阜商・伊藤主将、「まさか」の夏 LINEで感染者励まし続けた
(9日、第104回全国高校野球選手権大会1回戦 社10-1県岐阜商)
9点を追う九回表、県岐阜商の伊藤颯希主将(3年)は4回目の打席に立った。だが、バットは空を切った。この日3回目の三振を喫し、無安打に終わった。
「まさかこんなことになるなんて」。試合後の取材でそう語った。初戦の直前に、岐阜大会を一緒に戦ってきた主力選手が次々と新型コロナウイルスに感染。18人の当初のメンバーは10人が変更になった。3年生は3人しか残らなかった。
入学したときから、新型コロナにほんろうされた。主将として新チームになってからもだ。
秋は長期間、全体練習ができなかった。その後の県大会は3位決定戦で敗れ、選抜大会出場をかけた東海大会に出られなかった。春の県大会は準々決勝で敗れ、夏の第1シードを逃した。
昨季のチームと比べると、「個々の能力ではかなわない。チーム力で戦わなければ勝てない」。伊藤主将もそう話していた。
その集大成が帝京大可児と戦った岐阜大会の決勝だ。4点差をつけられていたが、終盤に5連打で一挙に同点に追いつき、最後は突き放した。
甲子園をつかんだ時の喜びはひとしおだった。決勝の延長十一回、捕手の村瀬海斗選手(3年)がサヨナラ本塁打を放った。ホームに戻ってくると、誰よりも先に飛び出して抱きしめた。その村瀬選手も新型コロナで離脱した。
抽選会後の取材で「ワクワクしている」と語った3日の夜、チーム内で体調不良者が出始めた。チーム全員が入っているLINEで「前を向こう」と感染した仲間を励まし続けた。
スイングスピードがプロ並みの160キロで高校通算24本塁打の強打者。勝負にも強く鍛治舎巧監督からは「6割の力でホームラン」と信頼も厚かった。鍛治舎監督は1、2年生中心の急造チームの難しさを挙げ、「一つにまとめ上げたのは伊藤のおかげ。ここで終わる選手じゃない」と感謝の言葉をかけた。
感染した仲間たちはテレビで試合を見守った。伊藤主将は「この試合に勝って2回戦から全員で野球をしたかった」と最後は声を詰まらせた。(東谷晃平)