206球に込めた先輩たちの夢 昨夏出場辞退の中越エース・小幡君
26日、高校野球新潟大会準決勝 帝京長岡1―0中越
初めての得点を許し、なお1死二塁。延長十二回、球数は200球に迫っていた。
中越のエース小幡拳志郎(3年)の表情は落ち着き払っていた。6番打者を左飛に打ち取ると、続く打者はフルカウントから16個目の三振にとった。
立ち上がりからピンチの連続だった。初回は死球をきっかけに右前安打と内野安打で2死満塁。六回にも安打と四球で2死二、三塁とされた。それでも「走者を背負ってからがうちの持ち味」。いずれも三振で切り抜けた。
最大の山場は七回。二つの四死球と安打で2死満塁のピンチを招き、4番打者を迎えた。準々決勝で2本の本塁打を放っている強打者だ。
マウンドに捕手増田恒輝(同)が駆け寄ってきた。「1点はいいから投げ切れ」。2ボール2ストライクからの一球が外れ、フルカウントに。6球目。外角に直球を投げ込んだ。高く舞い上がった打球が中堅手のグラブに収まるのを見届けると、大きく息を吸い、ほえた。
「落ち着きがなく、先輩に頼りきりだった」と自身のことを振り返る。転機は昨夏、非情な形で訪れた。新型コロナウイルスによる出場辞退。泣き崩れる3年生から甲子園出場を託された。「これからは自分がエース。自覚を持たなければ」。自らを奮い立たせ、練習で追い込んだ。
この試合、得点圏に走者を背負ったのは12回のうち8回。表情を変えることはなかった。「何が何でも投げきる」。先輩たちの思いを背負い、一球一球に気持ちを入れた。粘りの206球だった。
「やりきった。後悔はない」。試合後、そう語る顔はすっきりして見えた。野球は大学でも続けるつもりだ。「日本一を取れるように頑張りたい」。前を向いた。(友永翔大)