そば屋の夫婦が両親のように…前橋商、下宿生の主将が感謝の一戦
17日、高校野球群馬大会2回戦、樹徳3―0前橋商
敗退が決まった瞬間、前橋商の主将・星野歩夢(3年)は空を見上げ、大きく息を吐きながら最後の整列へ向かった。
「前商で野球ができて、感謝しないとな」
支えられた日々が思い浮かんだ。
福島県境に位置する群馬県片品村出身。前橋商まで電車やバスを乗り継いで2時間半以上かかる。練習を終えて帰宅するのは、午後11時過ぎで「きつい生活になる覚悟はできていた」。それくらい、前橋商で野球がしたかった。
入学後、学校近くのそば屋の2階で下宿生を受け入れていることを知った。切り盛りするのは久保田晋一さん、紀江さん夫婦。晋一さんは前橋商OBだ。「通学の時間も野球ができる。甲子園に近付けそうだ」。迷わず下宿を選んだ。
最初は寂しくて、毎晩母に電話をかけた。でも午後9時ごろに練習から帰ってくれば、「おかえり」と紀江さんがご飯を作って待ってくれている。6時半に起きれば、朝ご飯もできている。いつしか寂しさは忘れ、久保田さん夫婦を両親のように感じ始めた。
昨秋、主将になったばかりのころ。前チームから試合に出ている同級生が多く、自分が引っ張れるか不安だった。そんな時、紀江さんに言われた。
「プレー以外の面でも、行動で引っ張ることが大事だよ」
練習開始の1時間前に来て、グラウンド整備やゴミ拾いをするようにした。そんな星野を見て、仲間も一緒にグラウンド整備をするようになった。行動で引っ張れば、本当に仲間はついてきてくれた。
この日、五回2死満塁の先制機で高めの球を空振り三振。「もっと高めを打つ練習をしておけば」と悔やんだ。
でも、久保田さん夫婦のおかげで、憧れの前橋商でプレーができた。「帰ったら『支えてくれて、ありがとう』と伝えたい。前商で野球に打ち込めて、後悔はない」
インターネットで試合を観戦していた紀江さんは、こうねぎらった。
「星野君たちには『お疲れ様、ありがとうね』と伝えたい。私たちの方こそ、彼らに元気をもらっていたので」(吉村駿)