「偶然、兄と同じに」もらったミットで好判断 思ったより楽しかった
(10日、高校野球群馬大会1回戦、太田2―1高崎工)
1―1の同点で迎えた七回1死一塁。相手は9番打者だった。高崎工の捕手の中村一斗(3年)は読んでいた。
「ここはバントでくる」
バントの構えと同時に、腰を少し浮かす。一塁側にフライが上がると、素早くマスクを外して捕球した。兄からもらった大切な捕手ミットで。
中村の捕手ミットは二つ上の兄・冠太さんからもらったものだ。冠太さんは、前橋育英で捕手を務めていた。憧れの兄だ。
今年4月。チーム事情で外野手から捕手に転向した中村。不安になり、東京で働く冠太さんに連絡した。
「せっかくなら俺のミットを使って練習してよ」。家にあった黒の捕手ミットをくれた。冠太さんが高校時代に使っていたものだ。
冠太さんが3年生の時は、コロナ禍で群馬大会が中止に。練習も制限され、このミットを使う機会は少なかったと聞いた。
「偶然同じ捕手になった。兄の分まで頑張れってことかな」。そう思えば、慣れない捕手の練習にもひたむきに取り組めた。全体練習後も自宅で、フットワークの練習を重ねた。
「ミットを大きく開いて投手が投げやすいように」「守備位置の指示もすること」。冠太さんからもらったアドバイスを今日は実践できた。だからこそ、シードの太田をわずか2点に抑えることができたと思う。
負けた悔しさはある。でも捕手は思ったより何倍も楽しかった。「今後も野球を続ける時は、もう一度捕手をやってみるのもありです」。はっきりと話した。(吉村駿)