「もう野球への怖さはない」 ミスを乗り越えた山形工・奥山君
高く上がった白球以外、何も見えなかった。
四回裏。一塁近くのファウル性の打球を目がけて、山形工の二塁手、奥山瑠騎(りゅうき)君(3年)は走った。「オーケー! オーケー!」。仲間と交錯しないよう声を張り上げ、飛び込む。
球はグラブの数センチ先に落ちたが、笑顔がこぼれた。全力でやる野球は、楽しい。「これまでの自分なら、ライトに任せてたな」
創学館には、今春の地区予選で敗れた。「自分のせいだったと思う」。同点で迎えた八回裏の守備。2死一、二塁で、詰まった打球が三塁手の奥山君の前に。
「やばい、来ちゃった」。つい、よくない方向に考える性格。昨秋の県大会でも失策して、ミスを極度に恐れていた。
足は動かず、球を取りこぼした。2点を失った。直後の九回表。1人でも出塁すれば、自分の打順だ。でも、ベンチで泣き出してしまった。「打席に立ちたくない。野球もしたくない」。打順が回らなくて、ほっとした自分がいた。
マネジャーへの転向も考えたが、数日後、信頼する前監督から、LINEが届いた。「ミスをしてそのまま逃げるか。立ち上がってさらに上を目指すか」「今年で最後なんだから自分のプレーをしてこい」
考えが変わった。「失敗してもいい。思いきりプレーしよう」
8日の試合では、5点を追う九回表に先頭打者。「絶対打って、勝ちにつなげる」。そんな思いでバットを振ると安打に。「もう野球への怖さはない」。敗れたが、そう話す奥山君の目に、涙はなかった。(平川仁)