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「首脳陣」の会議方式で春優勝 山形・羽黒の「自分で考える野球」

2022年7月8日15時09分

朝日新聞DIGITAL

 第104回全国高校野球選手権山形大会が8日、開幕する。夏の甲子園出場をかけて46校43チームが熱戦を繰り広げる。

 開会式は午前10時半から山形県中山町の県野球場(荘銀・日新スタジアム)で行われる。各チームが一堂に会するのは3年ぶりとなる。球場での観戦に人数制限は設けないものの、原則としてマスクの着用を呼びかける。

 決勝は24日午後1時から県野球場で行われる予定だ。入場料は大人600円、高校生以下無料。

 ■羽黒

 6月中旬、羽黒(山形県鶴岡市)のグラウンド。練習試合が終わると、ユニホームに泥を付けたままのメンバーたちがベンチに集まってきた。

 「首脳陣」――。チーム内でそう呼ばれる主要メンバーだ。主将の鈴木響太や中軸の川田海、三浦奏、副主将の阿部慎之介といった3年生に、2年生ながらスタメンの江崎仁を加えた5人。

 「二塁から本塁までの走塁はもっと良くなるはず」「もう一歩リードを取っていいのでは」

 「意識づけの走塁練習をしよう」

 直前の試合で見つかった課題を話し合う。走塁や守備、各プレーごとの状況判断の当否など。10分ほど話し合って8点ほどの課題を列挙し、それに見合った練習メニューを次々と決めていった。

 チーム内の練習メニューは全て、選手たちが決めている。その中心を担うのが首脳陣。少なくとも週1回は、対面やLINEで開いている。

 「1人じゃ考えつかないことはたくさんあるので」。主将の鈴木は話し合いの意義をそう強調する。

 新チームが発足して主将になったばかりの頃、同級生からバント戦術の積極採用を提案され、ハッとした。一つ上の代は打線が強力で、「羽黒は打つチーム」との思い込みがあった。走力を生かして攻撃に幅を持たせるという考えが抜けていることに気づかされた。

 首脳陣が話し合った内容は、その日のうちにLINEでチーム全体に共有される。逆に、首脳が他選手から聞き取った意見を会議で取り上げることもある。「だれでも話せる雰囲気をつくることが大事」(主将の鈴木)だ。

 こうしたチーム運営に切り替えたのは2018年。部長から監督に就いたばかりの渋谷瞬(40)だった。

 従来の主将制度は責任が一人に集中しすぎだと感じていた。他のメンバーが他人任せになり、自ら考えるきっかけを失っていると。

 刻一刻と状況が変わる試合では、相手投手や走者といった周囲の状況だけでなく、自分の得意・不得意なプレーを踏まえて、次を想定しなければいけない。

 だが、劣勢の時にこそ「思考停止して、フリーズしてしまう」選手たちが目に付いた。

 「試合中の声かけも、チャンスで盛り上がり、ピンチで盛り下がるだけの、無意味なものが多かった」

 普段から考え抜くことを習慣づけさせようと、練習内容や時間など全てを選手たちに決めさせることにした。

 改善もしてきた。当初は「首脳陣」はなく、全員で考える方式。これだとそれぞれが自分の課題で手いっぱいで、チーム全体については、どこかひとごとのまま。そこで、20年ごろから全体に目配りができそうな選手を指名。「考える責任の所在を示す」のが狙いだった。

 特に新チーム発足時は、練習内容や試合中の判断について質問し、さらなるブラッシュアップを促す。次第に渋谷自身と考えが似てきて、発想に驚かされることも出てくるという。

 効果は表れている、と渋谷は言う。

 春の県大会準決勝の日大山形戦。8―6の2点リードで迎えた九回裏1死満塁のピンチ。渋谷は首脳陣の一人、副主将の阿部を呼び、「状況確認だけ」と一言添えて、伝令に出した。

 阿部はそのままマウンドに向かい、集まった内野陣に語りかけた。チームはその後、四球で1点を失うも勝利した。

 試合後、阿部に何を言ったのか尋ねると、「2点取られて同点になってもいいから、リラックスしていこうと言いました」。追い上げられる選手たちの気を落ち着かせる良い言葉だと感心した。

 チームはそのままの勢いで春の県大会を制覇した。

 「やらされるのではなく、自分で考える野球はやっぱり楽しい」。首脳陣の4番打者川田の言葉に、他のメンバーも皆うなずく。

 選手が練習方法を考える「ボトムアップ式」の部活が増えている。朝日新聞が山形県内の高校野球部46校を対象に実施したアンケートでは、少なくとも14校が、選手自ら練習を考えると答えた。

 ■山形東

 県内随一の進学校、山形東では、平日の練習は夕方の約2時間だけ。うち半分以上は自分たちで考えた個人練習に費やす。

 6月中旬、松田快斗(1年)は、ティーバッティングする自分の動きをスマホで録画していた。

 「バットの先端の下げ方を毎回変えて、ボールの飛び方がどう変わるのか見ています」。前日の練習試合で思うように打てず、バットの先端が下がりすぎなのではないかと考えた。それを確かめたかった。

 自分で見つけた課題は、それぞれが解決まで試行錯誤する。使うのはスマホだけではない。

 投手の一人、菖蒲(あやめ)陸(3年)が使っていたのは、球の回転数などを計測する簡易型弾道測定器「ラプソード」だ。回転数や軌道をタブレットで確認できる。

 課題は直球の回転数が少ないこと。低めに投げると、伸びが足りずにボールになってしまう。いくつかの投球フォームを試すと、目標としていた2千回転以上を出せるようになった。

 「中学までは監督に怒られないようにやっていたけど、今は自分の能力を上げるために練習している」と言う。

 物理教師で監督の笹木覚(35)は、「自分で決めた目的がないと、練習って楽しくないじゃないですか」と言う。

 練習内容を選手たちに決めさせるようにしたのは、2020年に監督に就任した時だ。チームの方向性を選手たちと話し合った際、「それぞれの課題が違うのに、画一的な全体練習が、技術の上達につながるのか」という疑問が出たという。

 課題に気づいているのであれば、個人で練習する方が合理的だと、笹木自身も考えた。

 フォローアップも欠かさない。練習中の会話、練習後の野球ノート、試合後のLINEを通じて、上達につながっているかを確かめる。選手同士でもお互いの課題を指摘し、意見を交わしている。

 以前は全体練習が大半だった。前監督の佐藤陽一(61)は今のチームを見て、「成長の速度はそれぞれ違うのに、最初から全体練習ばかりしていると、上達の遅い子が淘汰(とうた)されてしまうのではないか」と気づかされたという。

 なにより練習を楽しみにする選手たちの姿を目の当たりにして、「これは伸びるな」と感じている。「もうちょっと試合で声を出してもいいのになと、物足りない時もありますが」と笑う。

 全体練習は最初の約30分と、最後の約15分。ダッシュや筋トレなど負荷が高い練習は、短時間で全員で取り組む。主将の吉田壮太(3年)は「チームとしてだらけないように工夫している」とも話す。

 チームは21年春に、県8強入りした。吉田は「プレッシャーはあるが、自分たちの代として割り切って、初戦突破、8強を目指したい」と意気込んでいる。=敬称略(平川仁)

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