スポブルアプリをダウンロードしよう

  • Sportsbull Android App
  • Sportsbull iOs App

すべて無料のスポーツニュース&動画アプリの決定版!

QRコードを読み込んでダウンロード

Sportsbull QRCode

「一番悔しいのは村山なんだ」 亡き仲間に届けたい1勝 群馬・吉井

2022年7月8日08時00分

朝日新聞DIGITAL

 「村山、今日も俺たち練習がんばるから、ちゃんと見ててな」

 放課後、部室で練習着に着替え、グラウンドに向かう時。吉井高校(群馬県高崎市)の久保温矢(はるや)主将は部室の隅にあるベンチに向かい、心の中でそう話しかける。そこは大切な仲間が座っていたベンチだからだ。

 今年1月7日。始業式の朝だった。「村山が事故で運ばれたらしい」。友人から野球部の同級生・村山和駿(かずとし)さんが交通事故にあったと聞いた。「村山、ケガ大丈夫か。元気に戻ってこいよ」。後で、そうLINEをするつもりだった。

 昼休み、野球部は空き教室に集められた。そこで、村山さんのお見舞いから戻ってきた湯浅正義監督から告げられた。

 「村山は頭を打っていて、意識不明だった」

 「意識不明って、本当に元気に戻って来られるのかよ……」。急に不安になってきた。でも「村山なら大丈夫だ」とも思った。長距離走ではいつも先頭を走っていたからだ。「あいつは体力もあるし、絶対入院に耐えられる体だよ」。野球部のみんなで、そう話していた。

 無事退院できることだけを願い、野球部員と保護者らで千羽鶴を折った。久保は寝る前、自室にこもり50羽ほどを折った。「絶対戻ってこいよ。待っているからな」。一緒にプレーした日々が頭に浮かんでくる。

 試合で打席に入る時、一塁コーチスボックスから、「はるや、頼むぞ」と声をかけてくれていたこと。たったひと言だけど、リラックスして打席に入ることができていた。

 部室の鍵管理も村山さんが担ってくれていた。練習で疲れた後も、最後まで部室に残り、戸締まりをしてくれていた。しっかりものの村山さんだから、できたことだ。

 事故から18日後の25日。湯浅監督から、再び昼休みに集められた。そこで、村山さんが亡くなったことを告げられた。

 「心に大きな穴が空いた気がしました」。部員全員が泣いていた。久保も涙が止まらず、午後からの授業には参加できなかった。それから、新型コロナの影響で2カ月間、部活動が停止になった。

 3月末、全体練習再開の日。久しぶりの野球のはずだが、なんとなくみんな元気がない。主将の久保ですら、練習を盛り上げられる気がしなかった。大切な仲間を失ったこと、主将なのに前を向けない自分。どちらも悔しかった。

 でもある日、部室でぽつんと空くベンチを見て思った。そこは村山さんがいつも座っていた場所だ。

 「一番悔しいのは、村山なんだ」

 どんなに野球がしたくても、もうできない村山さん。今のチームを見て、どう思うだろうか。考えれば考えるだけ、「もっと頑張れよ。最後の夏に勝てよ」と言われているような気がしてきた。村山さんに勝利を届けるなら、「主将の自分がまずは前を向かなきゃ」と思った。

 でも、「村山のために」なんて仲間には言わなかった。そんなこと、みんな分かっている。

 大きな声を出し、村山さんのように走り込みも全力で取り組んだ。そして練習前には、村山さんの座っていたベンチを見る。そんな自分を見て、少しずつチームも盛り上がってきた気がする。

 夏の群馬大会は9日、開幕する。走り込みに筋力トレーニング。練習量も増えてきた。あと1本、あと1セット、心が折れそうな時にだけ仲間と話すことがある。

 「頑張るぞ。村山に勝利を届けるんだろ」(吉村駿)

関連記事

アクセスランキング

注目の動画

一覧へ