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憧れたイチローみたいな存在感、気づいた主将の役目 村田・我妻君

2022年7月5日17時15分

朝日新聞DIGITAL

 「将来があるのに今は無理する時じゃないよ。安静にしていないと」。有無を言わせない男性医師の強い口調に、宮城・村田の主将、我妻宝星(3年)は目の前が真っ暗になった。

 昨夏、雨上がりのバイク事故で左手を痛めた。救急車で運ばれた病院では「異常なし」と言われたのに、その後も捕球のたびに痛みが続いた。

 2カ月ほど耐えた末、念のために別の病院に行ったら、「靱帯(じんたい)断裂」との診断だった。「手術後、スポーツは1年できないよ」

 え? あと9カ月後には最後の夏の大会なんで、どうしても野球やりたいんですけど?

 「いや、間に合わない」

 そう念を押されて、自分の中で何かが砕け散った気がした。

 2週間後、気落ちしたまま職員室の荒木卓也監督に野球部をやめると伝えた。一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。

 「なんでやめたいの?」

 最後の大会に出られないのに、野球をやる意味なんてない。

 お互い言葉に詰まると、監督が口を開いた。

 「いてくれないと困る。お前がいると、チームの雰囲気が良くなるんだよ」

 まずは治療に集中しながら、練習に参加してくれと頼まれた。夏には代走でも何でも絶対に試合に出すからって。

 なんでこんな目に遭うんだろう。1年の時、入部してすぐにひじと肩を痛めた。ボールの投げすぎだったみたいで、3カ月ほど球を投げられなかった。みんなに追いつこうと、帰宅後は自主トレーニングを続けた。捕手を任され、誰よりも声を出した。

 そのかいあって、新チームでは主将に選ばれた。主将とかやったことなかったから、とりあえずあこがれのイチローみたいになろうって決めた。後輩を指導するときは短く的確な言葉で、そしてやっぱり、実力も示す。

 野球が嫌いになったわけじゃないけど、理想とする主将を務められないんだったら、潔く身を引くべきじゃないか。

 そんな迷いを見透かしたように、監督が言った。

 「プレーで先頭に立つだけがキャプテンじゃないんだぞ」

 チームには勝ち気なやつが多くて、衝突してばかりだった。

 ノックで1年の外野手がエラーすると、2年が「なんでそんなの捕れないんだよ!」と怒鳴る。1年も負けてなくて、「じゃあ、先輩なら捕れるんですか?」と言い返すから、「うるせえんだよ」と始まる。怒りで我を忘れて言い争いを続けてるのを「そういうのは練習が終わった後にやってくれる?」と収めに行くのが自分の役目だった。

 普段は穏やかで、にこにこしているからだろうか。「言いすぎだろ」とたしなめたり、具体的なアドバイスをしたりすると、みんな言うことを聞いてくれた。

 なんだ、自分のこんな性格が買われてたのか。

 1年かかると言われていたケガが半年で治ったのはラッキーだった。今年3月終わり。復帰初日に着替えを終えてグラウンドに向かうと、整備をしていた部員が「おかえり!」と迎えてくれた。気づいた他の部員も「おかえり!」。大合唱だった。みんな笑顔だった。

 ミーティングで伝えることは決めていた。「雰囲気が悪くなって負ける試合が多すぎる。ミスを責めても取り返せないんだから、これからはその場できついことを言わないで、後でアドバイスするようにして」

 春の地区代表を決める敗者復活戦。球を捕りそこねる選手がいても、この日は怒号や罵倒じゃなくて、「どんまいどんまい、次、次!」。これまでほとんど耳にしたことのない励ましの言葉だった。

 チームの雰囲気は以前より確実に良くなった。自分の思いが届いていると感じて、うれしかった。

 それにしても――。なんで自分ばっかりこんな目に遭うんだろう。

 5月、練習試合の走塁で足をひねり、右足首を骨折した。「7月末までは安静に」と言われた。

 まじか。またかよ。試合までに完治させるのは難しそうだ。でも、代走だったら……。ギプスが外れ、練習に顔を出す日々。自分なりにまとめてきたチームだ。どんな結果を迎えるのか、最後まで一緒に見届けたい。

 ◇目の前の壁や不運が大きすぎて、これまでやってきたことが無意味に見えてくる。自暴自棄にだってなりたくもなる。それでも、仲間や恩師たちの言葉で、もう一度奮い立つ。球児たちを支えたそんな一言を紹介します。(敬称略)(武井風花)

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