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高校野球「修行ではなくスポーツ」 新設チームとベテラン監督の1年

2022年6月9日10時30分

朝日新聞DIGITAL

 ■昨春創部の光英VERITAS(松戸市)

 昨夏の千葉大会1回戦。相手より体が一回り小さい選手ばかりの光英VERITAS(松戸市)のベンチが沸いていた。女子校が昨春共学化し、同時に新設された1年生24人だけの野球部だった。

 3―3で迎えた延長十二回表1死一、三塁。高橋琉輝(りゅうき)(現2年)は無心で打席に立った。

 初球。内角直球を捉えると、打球はライトの頭上を越えて飛んでいった。

 走者一掃の三塁打だ。「打っちゃった」。その裏、自らマウンドに立ち、チームを9―4の勝利に導いた。「勝てちゃった」

 創部3カ月のチームに公式戦初勝利が舞い込んだ。

   □   □   

 「何もないところから一緒に野球部をつくろう」「君たちが1期生だ」

 中学3年時の高橋らに声をかけ、創部に奔走したのは舘野文彦監督(62)だった。高校野球の指導歴は約40年。夏は野田北で県4強、市松戸で県8強、2019年には船橋東を率いて県16強に入ったこともある。

 だが、光英VERITASの監督就任が決まった際、従来の指導を全面的に変えることにした。「今までの自分の『正しい』を崩し、新しい野球をつくる。高校野球は修行ではなくスポーツだから」

 髪形は自由。長時間の厳しい練習や、体を大きくするために強制的に食べさせることはしない。甲子園や勝利にもこだわらない。練習内容から試合の戦術までを選手に任せ、「みんなで心を一つに戦うこと」を目標にした。

   □   □

 今年6月、同校のグラウンドには、1年前よりも体つきがたくましくなった2年生たちがいた。

 きっかけは、昨秋の県大会予選だ。京葉工に2―3で惜敗。相手投手の遅い球を打ち切れなかった。内野ゴロが続き、力んで打つとフライに打ちとられた。

 敗戦後、選手たちが自ら出した結論は「そもそもパワーが足りなかった」。チームで筋トレを始め、本塁打も出るようになった。

 昨夏の1勝がきっかけで中学軟式の県選抜エースなど、有望な1年生も加わった。チームは今、マネジャー含め56人の大所帯だ。「チームのレベルが高くなり、2年生にも刺激になっている」(舘野監督)

 昨夏はエースとしてもチームを引っ張った高橋は現在、右ひじや右手首のけがに苦しむ。今夏に間に合うかは微妙で、練習に身が入らない時もあった。そんなときに思い出したのが、昨夏の一打だ。

 のびのびと野球ができるこのチームに愛着がある。シートノック練習では三塁コーチとして人一倍声を出す。練習の合間にはチームで使う水分補給用の氷を用意した。「あの時はただチームのために打った。去年とは違うかたちになるかもしれないけど、今年もチームのためにできることをしたい」(上保晃平)

 ■ 国府台(市川市)

 国府台(市川市)の山下博将(ひろまさ)(現3年)には、忘れられない失投がある。

 1年前だ。無心で打席に入った光英VERITASの高橋に対し、走者2人を抱えてマウンドに立つ山下には、気負いと焦りが入り交じっていた。

 延長十回に4番手の投手として救援に立ち、延長十二回。既に疲れがあった。最速115キロの直球と変化球で打たせてとる投球が持ち味だったが、外角低めを狙った直球がすっぽ抜け、内側に甘く入った。

 「あっ」。打球は頭上を越え、試合の均衡を崩す2点三塁打となった。

 そこからは頭が真っ白になり、ベンチのかけ声も耳に入らなくなった。高橋に続く打者5人に連続の長短打を浴び、この回6失点。捕手のカバーに入った際、外野のスコアボードを見て、開いた点差にがくぜんとした。

 試合後の記憶はおぼろげだ。3年生に「お前のせいじゃない」と声をかけられたが、先輩の夏を終わらせた申し訳なさで、言葉が出なかった。

 マウンドに立つ自分。打たれた瞬間。がくぜんと見たスコアボード。その後、何度も夢で見て、うなされた。

 昨秋からの新チームでは、中学時代に経験のある捕手や一塁手に回った。内野から見ていると、投手の気持ちが表情や身ぶりから手に取るように分かることに気づいた。「イライラしてるな」「ここでバントは嫌だろうな」。投手の時に一喜一憂した試合の流れが客観的に把握できた。

 再びマウンドに立つ気はなかったが、今年3月、交代で機会が回ってくると、心残りが再燃した。「やっぱり投手がやりたい」

 大谷翔平選手を参考にフォームを改造し、球速を5キロのばした。変化球も増やした。制球力もつけた。今夏は、最速135キロの仲間とともに二枚看板を担うことになりそうだ。

 走者を出しても、心の切り替えができ、引き出しも増えた。ピンチになれば、自分を奮い立たせる言葉がある。「あの三塁打に比べれば、まだ大丈夫だ」

=敬称略(近藤咲子)

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