活動週1、掛け持ち可…膳所データ班が示す、新たな野球との関わり方
4月9日の土曜日、高校野球の春季滋賀県大会1回戦が開催された湖東スタジアム(東近江市)のバックネット裏に膳所(ぜぜ)の女子生徒2人が陣取った。
2人は他校の分析を専門とする野球部専属のデータ班の班員だ。勝った方が2回戦で膳所と対戦する試合の視察にきた。
ビデオで撮影しながら、1人がスマホのアプリにデータを入力していく。カウント、球種、打球方向、打席結果……。もう1人は手書きのスコアをつけながら入力を補助する。
試合で得られたデータはパソコンに移し、映像とともに選手らに渡す。選手らはそれをもとに作戦を立てる。
データ班が発足したのは2017年4月。膳所は県内屈指の進学校で、「強豪校にかなわない技術を頭脳で補おう」と、データを駆使した野球に力を入れ始めた。
翌18年春、そんな取り組みが評価され、第90回選抜大会の21世紀枠に選ばれ、59年ぶりの出場を果たした。
初戦の日本航空石川戦では、遊撃手が二塁後方に立ち、三塁手が本来の遊撃手の定位置に入る大胆なシフトを敷き、観客を驚かせた。
発足時は2人だった班員は、いま男子3人、女子7人の計10人。
野球のルールに詳しくなくても立派な戦力だ。
寺田聡(さとる)さん(2年)は、中学時代からパソコンをいじることが好きだった。将来の夢は人工知能(AI)の研究者。得意なプログラミングで役に立てる、と考えてデータ班に入った。
素振りをしながら打撃フォームを確認したいという野球部員の要望に応え、撮影した映像が少し遅れて流れるプログラミングをしたこともある。
「独学で自分の好きなようにやるのと、誰かの需要のためにやるのではモチベーションが全然違う」とやりがいを感じている。
半数以上の班員は、ボートや山岳などほかの部活動と掛け持ちしている。
班長の蒲生(がもう)麻琴さん(3年)はギター部にも籍を置く。中学まではソフトボール部だった。「深く野球のことを知ることができる」とデータ班に入った。
京大に進学して野球部に入り、データ分析を担当する学生コーチとして活動するOBもいる。
「発足から5年が経ち、野球との新たな関わり方として班の活動が根付いてきた」
データ班を指導する清水雄介部長(29)はそう語り、「本来なら競技と無縁だった子が野球と接点を持てる。将来の野球人口の増加にもつながれば」と期待を寄せる。
ほぼ毎日練習がある野球部とは違い、班員が集まるのは週1回程度。週末が多い試合の視察はシフト制で、参加を強制されることもない。勉強とも両立しやすい環境だ。
「野球には興味があるけど運動神経が……」
「マネジャーといっても野球部は忙しそうで勉強が……」
そんな理由で高校野球に携わることをためらっている生徒にとって、データ班は新たな選択肢となっているようだ。(安藤仙一朗)