市和歌山が100点の試合 野球の醍醐味つまった9回裏 高嶋仁の目
(27日、第94回選抜高等学校野球大会2回戦、市和歌山2-1明秀日立)
九回表裏の攻防は見応えがありました。
まず、明秀日立は1死から安打と死球で好機をつくると、9番の伊藤和也選手が送りバントで2死二、三塁としました。2死になっても三塁に走者がいれば、暴投や捕逸、失策でも得点が入ります。しかも、打者は2安打している1番の本坊匠選手です。守る市和歌山にとっては、重圧がかかる局面になりました。
実際、米田天翼(つばさ)投手の初球はワンバウンドになり、ヒヤリとしました。ただ、バッテリーは落ち着いてましたね。2ボールから内角球で、本坊選手を二ゴロに打ち取りました。捕球した二塁手の堀畑樹選手が体勢を崩し、一塁送球がワンバウンドになって、またまたヒヤリとしましたが、一塁手の大池悠太選手がうまくすくい上げました。
どこかでミスが出たら決勝点を奪われる場面で、よく守り切りました。
そうなれば、流れは自分たちの方に来るものです。その裏、市和歌山は4番の寺田椋太郎選手が中前安打と敵失で無死二塁。一転してサヨナラ勝ちの好機を迎えました。
今度は明秀日立がしのぐ番です。申告故意四球で一塁を埋めるのは当然でしょう。守りやすくなりますからね。無死一、二塁としたら、投球と同時に投手、一塁手、三塁手が前進して、打者に重圧をかける。狙い通りに送りバントが投手の前に転がり、二塁走者を三塁でフォースアウトにしました。明秀日立の守備も見事でした。
ただ、僕はなんとなく、続く米田選手が打つような気がしました。変化球が甘く入ったら捉えるんやないかと。そしたら、変化球を引きつけて右中間へ。前進守備を敷いていた外野手は追いつけません。サヨナラ二塁打になりました。
もし、前の打者の送りバントが決まっていたら、米田選手は敬遠されていたんやないでしょうか。1死一、二塁になったことで、相手は勝負にいって、米田選手は変に力むことなく素直にバットを出した。
何が幸いするか分からない。だから、野球は面白いし、怖いんです。
一つだけ確かなのは、試合展開は市和歌山のペースだったということです。
米田投手は9安打を打たれながらも簡単には決定打を許さず、バックも無失策で支えて1失点でしのいだ。攻撃陣は少ない好機を得点につなげました。最後は相手の守りのちょっとしたミスにも助けられました。
派手さはありませんが、市和歌山としては100点満点の試合やったと思います。(前・智弁和歌山監督)