昨夏辞退、未熟だった星稜のエースは変わった 先輩の思い背負う選抜
第94回選抜高校野球大会は27日、雨天で1日延びた2回戦2試合がある。大垣日大(岐阜)と対戦する星稜(石川)は昨夏、新型コロナ感染で甲子園への道を絶たれた先輩たちの思いを背負う。エースのマーガード真偉輝(まいき)キアン投手(3年)にも、特別な思いがある。
中学時代、U―15(15歳以下)日本代表で注目されたマーガード投手が選んだのは、故郷・沖縄から遠く離れた雪国の星稜だった。2019年夏の選手権大会で準優勝した時の快進撃をみて、ひかれていた。
「とんでもない化けもんが来る」。一つ先輩の投手、野口練さん(18)はたじろいだ。だが、現れたのは、あどけなさが残るかわいい少年だった。
いつものキャッチボールでも相手になった。「野口さん、からだ開いてますよ」。互いに投球フォームを指摘するなど、切磋琢磨(せっさたくま)した。
ただ野口さんは、マーガード投手が試合中にいらだったり、連投が続くと試合前から「無理、無理」と後ろ向きなことを言ったりするのが気になった。
「試合に出られない人もおるんやから、しっかりしろよ」。走り込みなど地味な練習で手を抜いているのが目にあまり、叱ったこともあった。
マーガード投手にとって理想のエースだった野口さんの言葉が、いっそう重みを増したのが昨年の夏だ。部員の新型コロナ感染で、石川大会準々決勝を前に出場辞退が決まった。
長い間泣いた後、涙を拭った野口さんがマーガード投手に歩みよって言った。
「次の代はお前やぞ」
マーガード投手は変わった。誰に指示されるわけでもなく、地味な練習にも取り組むようになった。試合で劣勢になっても表情を崩さず、率先して試合をつくるようになった。
野口さんは、もう注意することはやめた。
昨秋のある日、マーガード投手の寮の自室のドアノブに、星稜の青い帽子がかかっていた。
克己心。「マーガードに一番合っている言葉」と、野口さんがつばに書いて贈ったのだ。
今大会、天理(奈良)との初戦は八回に2点を取られ降板したものの、七回終了まで無失点に抑える好投を見せた。甲子園のマウンドを楽しむような姿を、野口さんはスタンドで見守っていた。「ここ一番で火がついたときの、誰も手が出せないマーガード」だった。「立派になったな」と感心した。
試合後、電話の向こうにいたのは、いつものかわいい後輩だった。「めっちゃ楽しかったっす!」(マハール有仁州)