「エースで負けたら仕方ない」が一番怖い 球数制限下でも目立つ完投
シーズン初めに、ここまで1人の投手に負担をかけていいものだろうか。
第94回選抜高校野球大会は24日、1回戦の16試合が終わった。17人が完投し、このうち投球数が150を超えた投手が6人いた。
実戦を積んでいない春先は打者の対応力が上がっていないため、どうしても投手力に頼った戦いになる。
ロースコアの接戦が増え、5試合が延長戦になった。延長を完投した5投手のうち、3人はタイブレークの延長十三回までを投げ切った。
昨年は1回戦の完投投手が14人。6試合あった延長戦での完投は4人だから、ともに増えている。
地方大会から長丁場になる夏の全国選手権大会でも、昨夏は初戦を戦った48校で、18人が完投した。
2020年春に1週間500球の投球数制限が導入され、3年目に入った。複数の投手を育てる意識は定着してきたものの、大事な試合はエースに頼ってしまう傾向は変わっていないように感じる。
延長13回の末、長崎日大を破った近江(滋賀)の山田陽翔(はると)は165球を投げて完投した。山田は4強入りした昨夏の全国選手権で右ひじを痛め、昨秋は公式戦に登板していない。
素直に拍手を送る気持ちにはなれなかった。かつてなら、165球を1人で投げ抜いたことを美談として報道しただろう。私たちも反省しなければならない。
どうしたら、エースの負担を軽減できるだろうか。
智弁学園(奈良)、智弁和歌山の監督として甲子園通算68勝の高嶋仁(ひとし)さん(75)は「大切なのは指導者の勇気」と指摘する。
「エースで負けたら仕方がない」「周囲も納得してくれるだろう」。そういう考え方が一番怖いと言う。
高嶋さんには苦い記憶がある。1996年の第68回選抜大会で、2年生の高塚信幸投手に準決勝までの4試合を完投させ、故障を招いてしまった。
激しく悔い、二度と選手を壊さないために、投手を1試合5人用意するなどの方針を設けるようになった。
強打の智弁和歌山だからこそできる投手起用だと言う関係者もいたそうだが、「5点以上をとられるから、それ以上をとれるようなチーム作りをした結果」と語る。
今の新3年生、新2年生はコロナ禍での高校生活しか送っていない。
コロナ以前の球児よりも、練習に制限を受け、実戦機会も限られてきた。例年以上に故障に注意が必要な世代でもある。
指導者が選手のコンディションを最も把握していることはもちろん分かっているし、次戦には別の先発投手を用意しているチームもあるだろう。
後半は日程も詰まってくる。1人の投手に負担が偏るような起用ケースは避けて欲しい。(編集委員・安藤嘉浩)
■初戦の投手起用
昨春 昨夏 今大会
1人 14校(4) 18 17(5)
2人 13 (5) 19 9(4)
3人 4 (3) 7 4(1)
4人 0 4 1
5人 1 0 1
※投球数制限導入後の甲子園大会。カッコ内は延長戦を戦ったチーム数。昨夏は1校が初戦を前に辞退し計48校