甲子園準V・阪神ドラ4の前川右京 高校野球の心持ち、忘れぬ訳は
プロ野球の世界は「結果がすべて」と言っても過言ではない。
ただ、13日にあった阪神タイガースの新入団会見で、ドラフト4位の前川(まえがわ)右京(奈良・智弁学園高)から感じたのは、高校時代に学んだ仲間の大切さを忘れない熱い思いだ。
1年夏から甲子園で4番を任され、高校通算37本塁打を放った左の強打者。今夏の全国高校野球選手権大会で準優勝に貢献した。印象深いのは、その打棒よりも、彼の行動だった。
決勝で智弁和歌山に敗れた。試合終了の瞬間、前川は次打者席にいた。戻ってきた最後の打者の肩をたたき、「大丈夫。前を向こう」と声をかけた。
その後も泣き崩れる仲間を励まし続けた。「全員が最後まで頑張って負けた。最後まで一生懸命戦えたことを誇りに思う」。自身の目に涙はなかった。
今春の選抜大会準々決勝で敗れた際も、試合終了を次打者席で迎えている。好機で併殺打に倒れるなど無安打に終わった。この時は責任を感じ、人目をはばからず涙を流した。
その後、兄から「試合に出て苦しむのは全然たいしたことはない。メンバーにも入れずに苦しんでいる子たちの思いを考えて野球をやれ」と言われたという。不振になったときは、仲間が助言してくれた。
「俺が、俺が」という力みが消えた。仲間の存在が、最後の夏へ、前川を大きく成長させた。
プロは厳しい競争社会ということは、自覚している。
「一日でも早くと言っていたらキリがない。初めから活躍する気持ちを強く持つ」「プレッシャーをかけながらやるのが、これからの仕事だと思う」
言葉の端々にピリッとした覚悟を感じた。その一方で「チームあっての個人。そこは忘れず、どういったところやったら阪神の勝利に加わっていけるのかも考えて野球をしていきたい」とも言った。
私は高校野球を2年間、担当し、12月から阪神担当になった。「智弁学園の主砲」がもがき苦しんで、春から夏への数カ月で成長した姿を見てきた。周りのことを考え、それを力に変える彼らしさは忘れてほしくないし、それがあってこそ、より大きく羽ばたけると信じている。(大坂尚子)