九回の4点差同点劇 4人目の代打は1年生、兄との物語
2年ぶりに開かれた夏の甲子園。兵庫代表の神戸国際大付は準々決勝で敗れたが、九回2死から4点差を追いつく粘りで強烈な印象を残した。この同点劇を生んだのは、4者連続の代打攻勢。最後の代打として登場したベンチ入り唯一の1年生は、コロナ禍で奪われた兄の夢も背負っていた。
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《ひろが行けへんかった 甲子園 行ってきます》
兵庫大会を勝ち抜き、夏の甲子園出場を決めた7月29日夜。柴田勝成君(1年)は、こんなLINE(ライン)メッセージを送っていた。
「ひろ」は、チームOBで3歳年上の兄・大成(ひろなり)さん(18)=近畿大野球部1年。神戸国際大付時代は、高校1年から内野手のレギュラーに。高1の夏の東兵庫大会は準決勝で惜敗。高2の夏は兵庫大会決勝で九回に逆転され、つかみかけた甲子園の切符が手からすり抜けた。
やれることは全てやって迎えた高3の夏。「甲子園、中止になった」。監督やコーチから聞かされ、しばらく言葉が出なかった。
昨夏の独自大会。チームは負けなしで白星を五つ重ねた。でも、その先に夢の舞台はない。「やっぱり甲子園に行きたかった」
託されたのが、弟の勝成君だった。
「ひろ」の背中を追い、同じく愛知県の親元を離れ、神戸国際大付に進んだ。
入学前、キャッチボールしていた「ひろ」が言った。「最後の夏は大会がなくなってすごく悔しかった。お前は頑張れ。俺の分まで頼むぞ」
居残り練習で、まずは自信のある守備を磨いた。それが兄の夢をかなえる近道と信じた。1年生ながら夏の兵庫大会はベンチ入り。甲子園出場を決めた。
《お前まじで頑張れよ!! 俺の分も頼んだ!》
あの夜、「ひろ」からの返信は早かった。
勝成君の甲子園初出場は、26日の準々決勝での近江(滋賀県)戦。4点を追う九回2死から2点を返し、なお二、三塁という重要な場面で、4人目の代打を任された。
「自分で終わらせたらあかん」。緊張しながら慎重に四球を選んだ。満塁の好機をつくり出し、続く先輩の同点打につなげた。
甲子園は、独特の雰囲気に飲まれてしまうような「すごい場所」だった。でも、「まだまだ『ひろ』に託された思いは達成できていない」。次はレギュラーを勝ち取り、甲子園でもっともっと上に行く。(西田有里)