降雨コールド告げた球審、今も葛藤 大阪桐蔭×東海大菅生
悪天候に悩まされている第103回全国高校野球選手権大会。17日にあった1回戦の第1試合は、大阪桐蔭が東海大菅生(西東京)に7―4で、八回表途中降雨コールド勝ちした。山口智久球審(49)は試合終了の際、両主将を本塁後方に呼び、「この状態の中で、いい試合をしてくれてありがとう」とねぎらった。
八回表、3点を追う東海大菅生が1死一、二塁としたところで、山口球審は中断を決意した。雨でグラウンドがぬかるみ、ゴロが止まって内野安打になった。ファウルを打った打者のバットがすっぽ抜けるシーンもあった。「選手がけがをしてはいけない。これ以上は続けられない」
32分間の中断の末、グラウンドに再び出た山口球審は、両校の主将を呼んだ。
「申し訳ないけど、グラウンド状態が悪いので、ここで試合を終了させてもらいます」と伝え、「後輩たちがまたここで対戦できるように頑張って欲しいと思います」と話しかけた。
2人の主将があいさつし、ベンチに戻ったのを見届け、午前10時38分、右手をあげて「ゲーム!」と告げた。そのまま一礼し、回れ右をしてグラウンドにも頭を下げた。
「試合終了のあいさつができなかった選手の分も、自分が代表しました。最後まで試合をさせられなかったおわびと、『選手たちは頑張りました。ありがとうございます』というお礼の気持ちも込めました」
もっと早く試合を止めなければいけなかったのではないか。自責の念は消えないという。「プレーボールをかけた以上、最後まで試合を続ける努力をしなければならない」「高校生の最後の試合を途中で終わらせたくない」。そんな葛藤を抱えていた。
山口さんは埼玉・大宮南高で外野手として活躍し、明大に進んだ。明大の先輩に誘われて30歳で東京六大学連盟の審判員になった。甲子園大会には2009年夏の第91回大会から参加。会社勤めをしながら、プレミア12など国際大会でもジャッジしている。
学生野球ファンや選手には、イニングの合間に、大きな声で選手を激励する審判としても知られている。「守りからリズムを作っていくぞ」「ベンチも盛り上げていくぞ」といった具合だ。「点差が開いて活気を失う時もある。ご批判もあるでしょうが、学生野球では選手に声をかけるのも、自分たちの大事な役割だと思っています」
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33年前、同じようなシーンがあった。滝川二(兵庫)が9―3で高田(岩手)を下した第70回記念大会(1988年)の1回戦。八回裏の滝川二の攻撃中に中断し、そのまま終了した。この時も打者のバットがすっぽ抜けるシーンがあった。球審をした永野元玄(もとはる)さん(85)は「私も山口さんと同じ。何とか試合を続けたいが、これ以上は無理だと判断しました」と振り返る。
永野さんもやはり、両主将を呼び寄せた。「誠に申し訳ないけど、試合を閉じさせて欲しい。握手をしてもらえないだろうか」と話したという。(編集委員・安藤嘉浩)