甲子園に出る兄の活躍を祈る 女子野球の妹「私は練習」
2021年8月12日19時19分 朝日新聞デジタル
私の分まで頑張って――。第103回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場する宮崎商の副主将・渡辺龍樹君(17)=3年=の妹・有奈さん(16)は、秀岳館(熊本県八代市)の2年生で女子硬式野球部員。全国高校女子硬式野球選手権大会の準決勝で敗れ、甲子園での決勝戦には進めなかった。「きょうだい出場」はかなわなかったが、甲子園での兄の活躍を祈っている。
有奈さんは龍樹君同様、綾小、綾中の出身。兄の練習や試合を見て育った。「私も一緒にやりたい」。小4の時に兄と同じ軟式野球チームに入り、投手として練習に励んだ。「体を大きく使って投げろ」「腕じゃなく、腰で打て」。兄が何でも教えてくれた。
「兄は負けず嫌いだけど、私には優しいんです」。綾中に入学して「野球部に入りたい」と言うと、担任も校長も驚いたが、龍樹君は「やる気があるならおいで」。練習すればするほどうまくなると実感し、練習にのめり込んだ。
「本気で硬式野球をやりたい」と秀岳館への入学を希望した。この時ばかりは家族全員が反対したが、有奈さんは譲らず、親元を離れて寮生活を始めた。
身長155センチの左腕投手。直球、カーブ、スライダー、チェンジアップを操る。練習試合で先発したり、公式戦で救援したりして実戦で活躍している。
今年は全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝が甲子園で開催される――。春にそれを知った時、「宮崎商も秀岳館も勝ち進めば、兄と一緒に甲子園でプレーできる」と胸が躍った。
だが、その直後。ひじに激痛が走った。練習でひじに負担をかけ過ぎたとみられる。1カ月ほど投球練習を控え、同大会のベンチ入りメンバーにも入れなかった。半分は悔しい思いで秀岳館の快進撃を見守った。
8月5日、母の幸代さん(42)に電話で問われた。「甲子園に龍樹の応援に行く?」。迷ったが、「行かない」と答えた。「野球のために県外の高校に通わせてもらっている。私がやるべきなのは練習だ」と考えたからだ。幸代さんは「じゃあ来年、甲子園に行こう」と励ましてくれた。
初戦は智弁和歌山戦。当日に練習が入ったら、テレビ観戦もしないつもりだ。龍樹君にはラインで「悔いのないようにがんばって」と伝えた。
「兄がどれだけ頑張ってきたか、同じ野球選手としてよく分かる。3年間の思いをぶつけてほしい」(佐藤修史)