倉敷商の三塁コーチは「レギュラー」 けがでも役割全う
2021年8月11日19時36分 朝日新聞デジタル
(11日、高校野球選手権大会 智弁学園10-3倉敷商)
10人目のレギュラーだ。
九回の攻撃、倉敷商の山本凌大(りょうた)にようやく三塁コーチの役目を果たせるときがやってきた。七回まで二塁を踏めなかった味方打線が4連打。右腕を回し、突き上げ、声を張り上げ、3人を本塁へ送り込んだ。
岡山大会目前の7月初め。実戦形式の練習で三塁を守っていて、二塁走者と交錯し、左鎖骨を骨折した。入院し、手術後は左腕を上げるのは厳禁に。用具を運ぶリュックサックも背負えなくなった。
三塁手だった。「倉商で三塁コーチはレギュラーだ」。2年前に就任したOBの梶山和洋監督から聞かされてきた。試合で何度か務めるうちに、自分の判断が勝敗を左右する面白さにはまり、今春の県大会前から本格的に取り組んだ。
ユーチューブでコーチの技術を紹介する動画を見つけ出し、走者への指示が的確に伝わる立ち位置などを研究した。ポジション争いを勝ち抜き、小学生の頃から憧れていた伝統校でレギュラーになれたと思えた。
その矢先のけがだった。「ベンチ入りは譲らなければいけないな」。あきらめかけていたら、監督から電話がかかってきた。「右腕を回せれば、お前の仕事はできるだろう」
岡山大会。普段は両手でジェスチャーを送るが、左腕はつった状態で動かせない。どう補うかを仲間と相談し、先の塁をいく走者へは右腕だけで、後続の走者へは声で指示を出した。混乱しないよう声を出すタイミングは遅らせた。
この日、完敗した。「力負けだったけど、自分たちができることはやりきった」。激しい運動はまだできず、18人のメンバーでただ1人、試合には出られなかった。ダイヤモンドの少し外側で、レギュラーとしての務めを全うした。(辻健治)