優勝の盛岡大付エースが完投 「1人で継投のイメージ」
(24日、高校野球岩手大会決勝 盛岡大付9-4花巻東)
リードしては追いつかれ、2度目の同点とされたあとの八回表。盛岡大付が最大の好機を迎えた。
先頭からの三連打で無死満塁になり、打席に立ったのはエースの渡辺翔真投手(3年)だ。
この日は3打席無安打。強く振ることだけを考えると、スタンドから響くメガホンや太鼓の音は耳に入らなくなった。
二球目、外の直球を振り抜くと芯に当たった感触。 「抜けた」
ライト前に転がる打球を見て、右手の拳を突き上げた。敵失の間に三塁へ。走者全員がかえり、一挙に3点を奪った。
「背番号1」に憧れて野球を始めた。でも高校に入ると投手一本ではなく、内野と外野の練習もするようになった。打力を買われ、「どこでも守れるように」とのことだった。
140キロ台の速球を続けて投げ込むような速球派ではない。だが、指先の感覚には自信があった。
微妙な加減で球の回転を変え、丁寧にコースを突く。抜群の安定感を身に着け、今春、背番号1をもらった。
だが、花巻東とぶつかった春季県大会の決勝では、投手として出番がないまま、0―15で大敗。夏の大会を前に、チーム全員で「絶対に花巻東に負けられない」と誓い合った。
その相手と戦うまで、激戦続きだった。
準々決勝で、最速149キロの斎藤響介投手(2年)擁する盛岡中央と投げ合い、辛勝。準決勝では、昨夏の独自大会覇者の一関学院に、9安打を浴びながら何とか2失点に抑えた。
花巻東の打線は、それまでの相手を上回る。
考えたのが「1人で継投するイメージ」だ。
序盤は直球勝負。相手が慣れてきて、四回裏には3安打を放たれ同点に追いつかれた。
「次は変化球中心の自分でいこう」と切り替えた。カーブやスライダーを中心に組み立て、五回以降は1点しか与えなかった。
九回裏、打者を3人で抑え優勝を決めると、駆け寄ってきた仲間にもみくちゃにされた。入学時から待ち望んでいた瞬間だった。
学校の成績はトップクラスで学年1位を何度も取った。「頭を使える子で、駆け引きもうまい」という関口清治監督。だが勉強より何より野球が好きだ。
「一球でも多く投げていたい」。舞台は甲子園に移った。(西晃奈)