コロナ禍の野球、息子に異変 母は毎日、弁当に細工した
(21日 高校野球兵庫大会 神戸第一2-6市尼崎)
4点を追う九回表、2死から四球で歩いた。歓声が湧いた。三塁側スタンドもまだあきらめてない。「頼むからつないでくれ」。神戸第一の主将、栄喜太河(たいが)君(3年)は一塁上から願った。
最後は投ゴロ。2年ぶりに甲子園へつながる夏は終わった。ただ、挑戦できたことは価値があった。
コロナ禍で、昨夏は独自大会に。「甲子園がないと決まったとき、なんて声をかければいいのかわからないほど先輩たちの表情が暗くて……」。チームは4連勝。前年王者の明石商も下しただけに、無念さが募った。
コロナ禍は続く。大会が中止になれば、やってきたことが無駄になってしまう――。「もやもやするような、漠然とした不安」が、ずっとつきまとい、野球に集中できなかった。
口には出さなかったのに、母の麻美さん(46)は気づいていた。「ちょっといらいらしてて、不安なのかなって」
だから、母は、新チームで主将になった息子の弁当に細工した。「頑張れ」と書いた細長いふせん。毎日貼り付けることにした。
栄喜君は、弁当を食べるたびに勇気づけられた。「みんなも不安。キャプテンの自分がシュンとなっててもダメだ」。ふせんは今春まで続いた。その頃にはすっかり前向きだった。
今大会は、まず2連勝。どちらの試合でも、スタンドで見守る麻美さんの前で三塁打を放ってみせた。この日は相手投手の変化球のキレに苦しめられ、5打席ノーヒット。照れくさいからプレーで母に「ありがとう」と伝えたかっただけに、心残りではある。
でも、気持ちはぶつけられた。「大会があってよかった。このためにやってきたんだなって」
麻美さんも、進学して野球を続ける予定の息子に言葉を贈った。「次のステージでも気持ちをぶつけて欲しい。『頑張れ』」(西田有里)