7月17日の高校野球 岩手
2021年7月18日04時00分 朝日新聞デジタル
第103回全国高校野球選手権岩手大会は10日目の17日、県営、花巻の2球場で3回戦計4試合があった。8強には、10年ぶりの盛岡中央のほか、同じシード校の花巻東と盛岡大付、ノーシードの盛岡四の4校が名乗りを上げた。18日は県営と花巻で3回戦計4試合があり、8強が出そろう。
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五回裏ノーアウト満塁。すでに9点差がつき、あと1点でコールド負けだ。
それでもレフトを守る一関一の橋野義明主将(3年)は、かけ声を上げるのをやめない。
「次の攻撃につなげる。ここで終わりたくない」
落ち着きを失って見えるマウンド上の投手を、最後まで励まし続けた。
小学2年のとき、交通事故で母を亡くした橋野君。
寂しさを埋め、父・智弘さん(54)とのつながりをより強めてくれたのが、野球だった。
大学まで野球をしていた父は、帰宅後に打撃フォームを見てくれた。仕事の合間や休みの日には練習試合に来て、撮ったビデオを一緒に見ながら、アドバイスしてくれた。
試合で打つと、自分のことのように喜んでくれる。負担をかけている分、「結果を出すことが一番の恩返しだ」と人一倍練習に励んだ。
今夏の岩手大会は、初戦で2安打を放ち3打点。2回戦は3安打2打点で勝利に貢献した。
そして迎えた3回戦の前夜、父からLINEでメッセージが届いた。
対戦相手になる盛岡四のエースが投げる様子を映した動画に、「変化球中心だよ」などと配球の癖が添えられていた。
そして最後の言葉に胸が熱くなった。
「ここまで来たんだから、最後まで頑張れよ」
だがこの日は、相手投手陣の直球や変化球に対応しきれず、ノーヒット。何としても打ちたかったが、次の4打席目は回ってこなかった。
「ここまで来られたのは父のおかげ。もっと親孝行したかった」。試合後、父について語るその目は潤んでいた。
この日、メガホンを手にスタンドから見守っていた智弘さん。「いい思い出を作ってくれてありがとう、という気持ちでいっぱい」。今夜は息子と焼き肉店で、ささやかな慰労会を開くことを決めている。(西晃奈)